38年ぶりの「戦メリ」
1983年に公開された時に見て以来、38年ぶりに大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』を劇場で見た。たまたま大学の授業で学生が話題にしていたら、無性に見たくなった。アップリンク渋谷でしか見られないが、なくなる前に行っておこうとも思った。
今は「戦メリ」と言っても通じないかもしれないが、当時は「戦メリ」は流行語に近かった。とにかくあのメインテーマがどこでも流れて、当時はツービートの1人のビートたけしとY.M.Oで突然人気が出た坂本龍一がテレビやラジオでこの映画のことを語っていた。大島渚監督もテレビで「女子高生が20回見たと言うんだよ」と嬉しそうに語っていた。
当時1回見ただけだが、いい悪いというより不思議なものを見た印象があった。どこかで映画のサントラを手に入れて、1984年から1年過ごしたパリになぜかカセットテープを持って行った。だからあの音楽は、パリのアメリカ館の部屋で何十回も聞いていた。
そのせいか始まってトム・コンティ演じるローレンスが出てきてハラ軍曹(たけし)に会いに行く時に坂本龍一のメインテーマが流れ、タイトルやクレジットが出てきたら、体がぞくぞくした。アメリカ館の光景が浮かんで涙が出そうになった。その後もいくつかのテーマが流れるごとに体が反応した。
実は冒頭に出てくる朝鮮人軍属のカネモトがオランダ兵を犯すという重要な事件さえ覚えていなかった。そこに朝鮮人を持ってくるのはいかにも大島渚らしいやり方だし、演じていたのが在日コリアンのジョニー大倉だったので今回は二重に驚いた。
今見ると、映画は日本軍が捕虜に対していかに残酷であったかをえんえんと見せているだけで、あえてドラマと言えば男同士の友情。ロック歌手のように濃いメイクをしていきり立つ坂本龍一はとても普通じゃないし、彼がデヴィド・ボウイ演じるセリアズを最初に見た時の衝撃の描写は滑稽なくらい誇張されている。
セリアズはあくまで坂本演じるヨノイの自分への愛を利用している感じだし、セリアズが突然ヨイノの両頬にキスするシーンの派手なスローモーションには笑ってしまった。ハラ軍曹とローレンスの間にも同性愛に近いような友情があるし、ローレンスとセリアズも旧友というが仲が良すぎる。ローレンスの女の話もセリアズの弟の話も何の脈絡もないが、弟の回想は異常に長くかつ耽美的だ。
戦場ならではのホモセクシュアルとホモソーシャルを日本兵の外国人捕虜への残虐行為という国際法違反のスキャンダルの中に混入させる大島渚の発想は破格というほかないが、それにしてもドラマはほとんど成立しておらず、やはりヘンな映画だった。そのうえ、終わってまたあのメインテーマが流れると涙腺が緩むのだからたまらない。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『旅と日々』の不思議な感覚(2025.11.15)
- 東京国際映画祭はよくなったのか:その(6)(2025.11.11)
- 東京国際映画祭はよくなったのか:その(5)(2025.11.07)
- 東京国際映画祭はよくなったのか:その(4)(2025.11.05)


コメント