『グリード』のわかりやすさ
マイケル・ウィンターボトム監督の『グリード ファストファッション帝国の真実』を劇場で見た。この監督は、1990年代半ばから2000年代にかけては英国映画の旗手だった。現代の社会的な問題に鋭く切り込み、『グアンタナモ 僕達が見た真実』(06)といった現実とフィクションが入り混じる話題作で各国の映画祭を席巻した。
最近は『イタリアが呼んでいる』といったスターのグルメ映画を作っているのでもう社会派は止めたのかと思っていたら、今回はファストファッションの帝王と資本主義の搾取を描くというので興味が沸いた。予告編で見た主人公のリチャードを演じるスティーヴ・クーガンのエグい感じがよかった。
104分の映画は、見ている間はワクワクした。びっくりする最後まであって、全く飽きない。かといって面白かったかというと、ちょっと微妙。まずリチャードがあまりにもわかりやすい。不自然なまでに歯を白く染め、妻と共に若い愛人を連れ歩く。ギリシャのミコノス島で60歳の誕生会を準備中だが、セレブのそっくりさんを呼ぶなど怪しさが炸裂。
そこに彼の伝記を書くニック(デヴィッド・ミッチェル)のインタビューや、3カ月前の英国政府の聴聞会のシーンが挿み込まれる。企業の買収を繰り返して倒産させて利益を上げ、スリランカに出かけて行って、貧しい人々に月5ドルで働かせる工場にさらに安く卸させる。あるいはミコノス島でキャンプをするシリア難民を蹴散らす。
「悪の塊」がこれでもかと動き回り、案の定、その危うい姿が浮かび上がる。最後はとんでもない目にあうのだから、まさに勧善懲悪でわかりやすい。さすがにウィンターボトムなので、この単調な流れが伝記作家のニックの存在でメリハリがつく。彼の落ち着いた感じが救いとなるし、インタビューでリチャードをクールに論じる人々もいい。
もう1人はリチャードのスタッフでスリランカ出身の若い女性。彼女はシリア難民を危ないところで救ったり、最後のどんでん返しに関わる。この2人がいないと、家族も従業員もみんなリチャードにぶら下がって生きているので、見ていておもしろくない。安い金でギリシャ式劇場を作るために雇ったブルガリア人労働者が言うことを聞かずいなくなるシーンなどおかしいけれど。
見終わって時間がたつと後味が悪くなってくる。ユニクロや無印などのファストファッションを買う自分もあのような男=強欲資本主義に加担していると思い至るから。おそらくウィンターボトムは、見る者みんなにこうした感情を抱かせるために作ったのだろう。
そういえば、還暦になって映画がいつでも1200円になった。長年この時を夢見たはずだが、なってみるとどうということはなかった。
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