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2021年6月24日 (木)

ホン・サンスの原点へ

先日、間違えて既に見ていたホン・サンス監督『逃げた女』をもう一度見たが、その体験が妙におもしろかったので、ほかの作品を見ようと思った。私が見た彼の作品で一番古いのは(たぶん)『アバンチュールはパリで』(2008)ではないか。その後の作品はおおむね見ている。

今回、長編2作目の『カンウォンドのチカラ』(1998)を初めて劇場公開しているので見に行った。確かに20年以上前の作品だとだいぶ違った。一言で言うと、ずっと暑苦しいというか、男女の性欲が生々しく画面に出ていた。

テーマとしては若い女性が年上の既婚男性を翻弄するというもので、ホン・サンスのその後の多くの作品に共通する。登場人物がやたらに酒を飲むところも。ただしこの作品では、そこで起きるおかしさやユーモアよりも、出てくる男女全員が「恋を恋する」感じで行き詰っている。

女子大生のジスクは女友達2人と満員の夜行電車に乗って、江原道(カンウォンド)へ向かう。江陵駅で降りて宿を探してるところで、親切な若い警官に会い、一緒に酒を飲む。ジスクは妻帯者と付き合っていたことを非難されて悪酔いし、警官に介抱されて詰所に泊まる。その警官も既婚者だったが、旅行から帰ってしばらくしてジスクは警官に会いに再び江原道へ行く。

場面は変わり、サングォンは大学講師で教授に付け届けをしながら何とかポストを狙っている。家には妻と子供がいる。彼は大学関係の仲間二人と江原道に行く。乗った電車にはジスクたちがいて、友人はジスクたちのそばを通ってビールを買うが、ジスクもサングォンも気がつかない。江原道で3人は偶然に会った女に惹かれるが、後で会うと彼女は男性と一緒だった。

彼らはバーに行ってホステスをホテルに連れ帰る。酔って寝た友人もいたが、サングォンはそのうちの1人と関係を持って金を払う。それからある日、サングォンはジスクと再会し、お互いが強い絆を感じて抱き合う。

全体に雑音が多いこともあって、どうも落ち着かない。そのうえ、みんなジスクもサングォンも自分でも本当にやりたいことがわからずに自分探しをしている。その願望の強さが画面を覆っているので、最近の融通無碍のホン・サンス作品とはだいぶ印象が異なる。

江原道は調べてみると韓国の北東部で、北朝鮮と日本海に面している。ソウルからちょっとした観光に便利な海岸や山がある場所のようだ。ホン・サンスの映画ではあまり人のいない寂しい海岸がよく出てくるが、ここもそんな感じ。私は韓国は釜山とソウルしか行ったことはないので、もっと田舎に行きたいと思った。

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