「イサム・ノグチ」展の見ごたえ
イサム・ノグチは名前は有名だが、私はまとめて作品を見たことはなかった。最初に見たのは、1986年夏、旅先で見たベネチア・ビエンナーレでアメリカ代表として出ていた時。当時は日系人かな、と思ったくらい。しかしその「あかり」シリーズは美しかったので記憶に残り、帰国して銀座松屋でレプリカを買って長く使っていた。
その後、1992年の東京国立近代美術館での個展も見ていない。新聞社に移って本格的に美術展に関わるようになったのはその翌年だった。それからいろいろな展覧会や常設展の中で彼の作品が1、2点展示されているのを見た。庭に石や鉄の彫刻が飾ってある美術館もあった。
いつか個展を見たいなと思っていたので、東京都美術館で8月29日まで「イサム・ノグチ 発見の道」が開催中と聞いて見に行った。確か去年開催予定がコロナ禍で延期になったはず。これがなかなか見ごたえがあった。
よかったのは地下、1階、2階の各展示室に壁を一切立てずに吹き抜けにしていたことと、彫刻だけを90余点選んでいたことである。各階で20~30点ほどのさまざまな形の彫刻がまるで森の木々のように並んでいる。作品同士の対話が生まれそうな、親密な空気が流れていた。そこに置かれたソファに座ると、まるで庭園にいるような気分になる。
地下は「彫刻の宇宙」と題して、真ん中に「あかり」の巨大な照明インスタレーションがあり、まわりにブロンズや陶、石の彫刻が並んでいる。1940年代のものは人の形を思わせて、私はすぐにルーマニア生まれでパリで活躍したコンスタンティン・ブランクーシを思い出した。会場の年表を見たら、彼は1927年、23歳の時にブランクーシのアトリエで数カ月無給で働いたと書かれていたのでびっくり。
ブランクーシはパリのポンピドゥー・センターで大きな個展も見たが、ブランクーシの方がよりヒューマンな思いに貫かれている。イサム・ノグチはもっと鉄や陶や石の素材そのものに向かう。1階は「かろみの世界」だが、薄いステンレス板や鋼板の組み合わせが不思議な形を生み出し、いわば素材の美を作り上げている。そして2つの角に小さめの「あかり」。
2階は「石の庭」でこれはまさに石の表情を巧みに宇宙的なレベルに高めている。人間よりも物の存在感で自然や世界を見せると言えばいいのか。人間のいない世界の美しさを思い描いてしまう。
平日昼間にもかかわらず、会場に若い女性が多かったのに驚いた。地下と1階は撮影自由なのでSNSで広がっているのかもしれないが、このデザイン感覚、環境志向は今の日本に「欲しい」ものかもしれない。作品は日本各地の美術館とニューヨークから集められているので、今後これほど揃うことはなかなかないだろう。必見。
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