『パンケーキを毒見する』を学生が見たら
前にここで紹介した7月30日公開のドキュメンタリー映画『パンケーキを毒見する』の試写を、私が教える大学で行った。安倍政権を批判した『新聞記者』をヒットさせ、『宮本から君へ』の助成金取り消し問題で日本芸術文化振興会に勝訴した破竹の勢いのプロデューサー、河村光庸さんの最新作だが、5月に彼に講義をしてもらったきっかけで「学生に見せたい」と提案があった。
監督がテレビ番組のディレクターを長年務めたテレビマンユニオンの内山雄人氏だけに、「映画」として見るといささか緩いというかソフトタッチのところもある。そこが少し心配だったが、上映後の河村氏とのディスカッションで学生たちはそこを突いてきた。
「菅首相の本を読むシーンは、白人女性が寝転がって読んでいる映像が使われていますが、違和感がありました。なぜですか?」。河村氏は「それは実は私も疑問です」。私は思わず「テレビ的な処理というか、わかりやすさでしょう」と付け加えてしまった。
「なぜ一部アニメを使ったのですか、若者を意識してですか」「なぜ最後に日本がどんどん世界から遅れている事実を提示したのですか」など鋭い細部に突っ込んでくる。
私が特におもしろかった質問は、2つあった。1つは「終盤に選挙に行こうと議論する学生たちが出てくるが、みんなMARCH以上のエリート校でわざとらしいが、なぜあの場面を入れたのか」というもの(実際にはほかの大学生もいた)。河村氏はまず笑いながら「反省しております」と述べた後に「監督があのグループと以前から接触があったから」と説明した。
質問した女子学生は、自分が同じ大学生だから登場する能弁な学生たちを見て嫉妬したのかもしれない。しかし河村氏は「MARCH以上と言われると、私は何も言えません」と本音を漏らしていた。
もう1つも近い質問で「私は「若者が政治に興味がない」とか「若者が外飲みをしている」とか言われる「若者」という言葉に違和感を感じている。終盤にはまさに「若者」が取り上げられるが、あなたにとって「若者」とは何ですか」。
これに対して河村氏は自分が全共闘世代であり、各世代の特徴がはあることを説明しながら「選挙権がある18歳から35歳くらいまでが自分にとっての若者」とした。これまたあまり説明になっていなかった。
終了後、河村氏は学生たちの質問が自分を慌てさせるほど的確で、かつ礼儀正しく聞いてきたこと、40分ほど最後まで質問が絶えなかったことに驚いていた。マスコミ向けの記者会見などでも、なかなかいい質問は来ないと。私は少し誇らしい気分になった。
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コメント
「パンケーキを毒見する」の監督の内山と申します。
まずは学生向けの試写を開いて頂き誠に ありがとうございます。
同時刻に渋谷で こちらも学生向けの特別試写会で登壇していた都合で、
そちらで学生たちの質問に答えられずに誠に残念です。
さすがに古賀先生は朝日新聞ともご関係があるだけあって、するどいご指摘、ありがとうございます。
ソフトタッチは私の力及ばずだったと思います。
ロケ期間、半年弱、コロナ禍もあり人に合うことすらままならない状況だった という言い訳しかできませんが。
元々政治に興味のない人たちに届ける狙いだったので、
「面白そうで、難しくない政治バラエティ」 であり、スクープ的な物は短期間では狙ってないのでソフトなんです。
政治に詳しい方は この意を瞬時に汲んで頂けたようで、
むしろ、リアルな証言、言葉の重み、表情から「圧力のリアルさ」など紙面では伝わらない「隠れされた真実」を掘り起こして、
わかりやすく伝えてくれてるね、と評して頂いてます。
今の日本のメディア下よくやってくれた、とも。
朝日新聞ならこの短期間でもスクープやハードな内容ができるかもしれませんね。
河村さんはプロデューサーなので企画、立ち上げについてはご存知ですが、中身の責任は私にありますので
やや不確かなまま、ネットに上げられていると 出演されていた学生たちにも迷惑がかかるので、
事実関係の修正をさせて頂きます。
「みんなMARCH以上のエリート校でわざとらしい」
あの学生さんは ivote という団体所属と本編中のナレーションで伝えた上で(学校を選んだ訳ではない)、
「大正大学」とテロップ表記した女性もあの場にいましたので、完全な誤解です。
政治意識のある学生(選挙と学生を近づけたいという旨の団体)であれば、
周囲の政治無関心な学生たちの分析もしているだろうという狙いで 集まって頂きました。
あくまで撮影日に都合が合ったメンバーでしかありません。
また学生団体からは、政治ドキュメンタリー映画への出演を断れ続け、
彼等だけがフラットな立場でという条件で参加してくれました。
学歴が高めかどうか、ではなく、「政治への関心があり、コメントしてくれる」からです。
本編をしっかりご覧なれば、間違わないはずですが、映像専門の学校から
見間違ったコメントが ネットから一人歩きされるのはとても残念です。
できれば、「MARCH以上の〜」は完全削除して頂きたいです。
また学生からいろんな質問が出るのはうれしいですが、
ほぼ演出上の意図を 聞きたがる質問で それを全て明かすことは
映画の楽しみ方を損なう感じがして、どうなのか、と思います。
まず、受け手から「自分はあの演出は○○という意図を汲み取ったが
それについて監督はどうか」という会話が
「受けて」と「作り手」の会話のような気がします。
個々が自在に解釈を楽しむのが映画の醍醐味ではないかと。
また文面から察するに、学生の声が全て作品を見下ろす視点から語られていて、
やや驚いています。
もしかして作り手でなく、評論家を養成しているのかな、と。
政治的な理解についてコメントがないのも、日芸という校風なのかと
憶測してしまいました。
こちらの渋谷での学生さんたちは、目をキラキラとさせて
「どこがどう面白くて、国会中継への興味が湧いて…しかし、こういう事は考えなかったのですか?」
と 政治への意識を高め、未来を向いた熱量で語ってくれる反応ばかりで、
作品を見下す学生さんは皆無でした。
(残念ながら、マーチ以上の学生さんばかりだったからかもしれません)
素直に日芸の学生さんたちの感想を聞いてみたかったです。
(見下すつもりなら控えます。なにせド新人の監督でダメージに弱いので)
映画を少しでも多くの人に届け、投票行動につながれば、という思いなので
ご協力頂き、誠にありがとうございます。
テレビマンユニオン
内山雄人
投稿: 内山雄人 | 2021年7月16日 (金) 16時01分