「ざわつく日本美術」展とは
最近、「怖い絵」展とか「あやしい絵」展とか、妙な題名の美術展が多くなった。8月29日までサントリー美術館で開催中の「ざわつく日本美術」展もまたその流れではないだろうか。この展覧会は、なんといっても章立てがぶっ飛んでいる。
「第1章 うらうらする」「第2章 ちょきちょきする」「第3章 じろじろする」「第4章 ばらばらする」「第5章 はこはこする」「第6章 ざわざわする」だが、「うらうらする」「じろじろする」「ざわざわする」はともかく、「ちょきちょきする」や、ましてや「はこはこする」は日本語だろうか。
実は私には「はこはこする」が一番おもしろかった。「はこはこ」とは、単に美術品を外箱と共に展示していることを指す。日本美術には茶碗やガラス細工などの工芸品が多く、それらは実は収蔵庫では箱に入っている。しかし普通の展覧会では当然箱から出して中身だけを展示する。
今回は数点の作品をまとめていくつかの展示ケースで見せているが、床に書かれた線を辿るとその先に箱も展示されている。これがとんでもない豪華な箱のこともある。鎌倉時代の笙はそれ自体は地味だが赤に金の刺繡の袋に入れて紐が巻かれ、さらに派手な漆の箱に入れて紐で止めている。
私は昔、新聞社の文化事業部に転職した時の新人研修を思い出した。転職した私も大学を出たばかりの若者と一緒に参加したが、東京国立近代美術館工芸館の研究員だった樋田豊次郎氏(今は東京都庭園美術館の館長)が、「工芸品の扱い方」を教えに来てくれた。彼は紐に縛られた箱や袋から器用に茶碗やお猪口を取り出して、箱や袋や紐は展示しないが重要な美術品であることを説いてくれてびっくりした覚えがある。
「はこはこ」以外もこんな感じで、「うらうらする」は展示品の裏を見せるということ。江戸時代の大きな有田焼の鉢があり、それを宙に浮かせて鉢の裏側も鏡で見られる。するとそこには「寿」の金文字がある。あるいは黒いお椀は蓋を開けるとえんじ色の派手な草模様が蓋にもお椀にも見える。
つまり日本美術はふだんは見えないところにも細かい細工がしてあるということなのかと思うが、「ちょきちょきする」は単に切断された作品を並べている。つまり絵巻をいくつもに切断して掛け軸にしたり、おそらく上部が割れた薩摩切子を別の形に作り変えたり、という次第。確かに「切断」という大胆な行為も日本美術の特徴かもしれない。
あれやこれやで楽しみながら、サントリー美術館の所蔵品を楽しむことができた。すべての作品にかなり長い解説があるので、いつもはあまり解説を読まないせっかちな私はちょっとイライラした。しかし読まないと、展示意図がわからない。たまたま人の少ない平日夕方だからまだよかった。
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