『ドライブ・マイ・カー』は新たな高みへ
カンヌで脚本賞を取ったばかりの濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』は5月に試写で見た。これから8月20日の日本公開に向けて盛り上がるだろうから、私の感想も書いておく。この監督は『ハッピーアワー』(2015)、『寝ても覚めても』(2018)と毎回新しい領域に踏み込んでいる感じがする。今回は特にそう思った。
芝居のリハーサルをしている様子を映画に撮るのは『ハッピーアワー』でもあったが、今回は何倍も複雑だ。オーディションで集まったのは、日本人以外に中国人、韓国人、フィリピン人など多国籍。彼らはチェーホフの『ワーニャ叔父さん』をそれぞれの母国語で演じて、舞台では字幕が出る。韓国語には普通の韓国人のほか、言葉が話せず韓国手話のみの役者もいた。
西島秀俊演じる主人公・家福は俳優兼演出家で、彼らとリハーサルを重ねる。最近では国際合作でこういう演出もあるとは聞いていたが、映画にそれを取り入れるとどうなるか。さらに彼は行き帰りの車の中で亡くなった妻が吹き込んだ『ワーニャ叔父さん』の録音を毎日聞いている。主人公はいわば演劇の台詞に取り巻かれている。
映画は家福が妻(霧島れいか)とベッドで語るところから始まる。それは性交の後の架空の物語で、家福が語り妻はそれを文字にして自分のテレビ用のシナリオにしている。これまた言葉の渦だ。そしてある時、家福はふいに家に戻って来て妻の秘密を見てしまう。
2人は愛し続けるが、ある時妻は亡くなってしまう。ここまででたぶん40分ほどたっているが、「それから2年後」というところでクレジットが流れる。家福は広島に滞在し、オーディションをしてリハーサルを始める。ここでポイントとなるのが家福が乗る赤い車。スウェーデンの「サーブ」だが、2年前のプロローグでも彼がそれに乗るシーンが何度も写る。
広島では、家福は録音テープを聞くためにあえて車で1時間かかる瀬戸内海の海沿いの町に住む。自分の車で来ているが、劇場が用意したドライバー・みさき(三浦透子)に運転してもらうことに。ぶっきらぼうな感じのみさきとの会話がいい。
一方、リハーサルを続ける俳優の中に以前妻に紹介された若い男・高槻(岡田将生)がいた。妻とかなり親しかったようなこの男は家福と話す場を持ちたがり、ある時二人はみさきの運転する車の中で妻についてたっぷり話す。
『ワーニャ叔父さん』の入り組んだ恋愛があり、家福自身の妻への思いと高槻との複雑な関係がある。そして新たにドライバーのみさきの物語も交差してくる。車にばかり乗っている静かな映画のはずなのに、物語は進むにつれて重層化して最後の突破口に向かう。個人的には前の2作の方が好きだが、濱口竜介監督がまた新たな高みに達したのは間違いない。まさに脚本賞にふさわしい映画。
今回はパルム・ドールを除くと、濱口さんを始めとしてアスガー・ファルハディ、レオス・カラックス、アピチャッポンなど本当に力のある監督たちが賞を取ってよかった。
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