『走れロム』の勢いに飲まれる
ベトナム映画『走れロム』を劇場で見た。予告編で見て、おどろおどろしい画面に惹かれたから。冒頭に文字でベトナム当局の検閲で一部削除されたことが述べられ、次に「デー」という非合法の闇くじについて説明がある。公式の宝くじがあり、「デー」はその当選番号の下2桁を掛けるらしい。
ロムは走る。おんぼろアパートの入り組んだ道を走り抜ける。まずは番号を予測してお金を回収してゆく。次に当選番号表を走って配る。そして胴元からお金をもらい、みんなに振り分ける。夜や朝には屋根に上り、瓦に書いた無数の数字から次の当選番号を予測する。ロムにはライバルのフックがいて彼のショバを荒らし、ロムがもらった金を奪って走る。
79分間、ほぼ走っているだけ。実のところ闇くじの仕組みさえ、最後までわからない。そもそもなぜ走る必要があるかも含めて、結局のところ謎だらけ。自殺する老婆がいたり、公安が来て住民全員が逃げたり、再開発を狙う地上げ屋はおんぼろアパートに火をつけたり、とにかく喧騒と狂気の毎日をカメラは斜めのショットを多用して見せる。
ロムが走るのは貧民街だが、少し離れると大きな通りがあり、車やバイクが一斉に走っている。そのなかをロムやフックはひたすら走る。フックが乗るいかだは棒切れやペットボトルでできているがちゃんと浮かび、フックはそれを使って近道をする。遠くには高層ビルも見える。
ロムの両親はおらず、彼はお金を貯めて両親を探そうと考えていること以外には、人間関係も少ない。彼に食事を与えて優しくする女性も出てくるが、物語には繋がらない。結局、走っているだけだけど、それがあまりにも真に迫っているので、しっかりと心に残る。
監督は1990年生まれのチャン・タン・フイで第一回長編という。そしてロムを演じたのは監督の実弟らしい。走るだけのこの不思議な映画が絶対的な強度のリアリズムに貫かれているのは、そういうことなのかと思った。
上映前に「日経」のこの作品の映画評を広げて熱心に読んで読んでいる若者がいた。いまどき珍しいが、気になって家に帰ってその新聞を探した。最近この新聞に書き始めた春日太一氏の評だったが、「画」を「え」と読ませるなどやたらにフリガナの多い表現はどうだろうかと思った。
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