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2021年8月 2日 (月)

真夏の『イン・ザ・ハイツ』

もともとミュージカルは苦手だ。道路でいきなり歌って踊り出す人を見るのは、どこか恥ずかしい。『イン・ザ・ハイツ』はニューヨークのラテン系のミュージカルで2時間23分もあると聞いてとても真夏には無理だと思ったが、行きたくなる理由があった。

1つはこれが伝説的ミュージカル『ハミルトン』を生んだリン=マニュエル・ミランダが、その前に手掛けた同名ミュージカルを元にしたものだということ。『ハミルトン』は、2016年初夏、パリ滞在中にニューヨークに行った時にみんながこのミュージカルの話をしていたが、チケットが取れなかったので脚本・作詞・作曲・主演のプエルトリコ系2世の名前を憶えた。

そのうえ、映画版の監督は『クレイジー・リッチ』を作った台湾系のジョン・M・チュウ。このマイノリティ布陣は見たくなったので、劇場に行った。結果としては最初はピンと来なかったが、だんだん乗せられてしまったという感じ。

構造としては、父の故郷のプエルトリコに帰ったウスナビが、現地の子供たちを相手にニューヨーク北部のラテン系移民の多いワシントン・ハイツでの思い出を語るという形で話が進む。

ウスナビというのは妙な名前だと思ったら、US Navyのことだった。彼は親が開いた食品雑貨店を引き継いでいるが、そこに毎日来るヴァネッサと仲がよかった。ヴァネッサはデザイナーを夢見るが、道は遠い。

その地区から始めて名門のスタンフォード大学に進学したニーナは、大学での差別に絶望し、ワシントン・ハイツに戻って来る。タクシー会社を経営する彼女の父はそのことを認めない。そこで働くベニー(彼だけがアフリカ系)はニーナと愛し合っていた。

この設定に数日間の「大停電」というアクシデントが加わり、ワシントン・ハイツの住民たちはいよいよ連帯を強めてゆくというものだが、それにしてもドラマがなさすぎる。ウスナビはヴァネッサを捨ててプエルトリコに行く決心をするので冒頭につながるかと思いきや、実はというサプライズはあるけれど。

ウスナビとヴァネッサがビルの壁を縦横に踊るシーンがすばらしい。実はジョルジュ・メリエスの『蠅人間』という短編に似たトリックがあったし、フレッド・アステアもどこかでやっていたはず。そう思って調べたら「日経」で渡辺祥子さんが『恋愛準決勝戦』(1951年)と書いていた。さすが。

ミュージカル好きにはいいが、私のようにマイノリティ興味で見るとあまり政治的な主張が強くなくて、やはり長かったかも。

 

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