『R帝国』の描く近未来
中村文則の小説『R帝国』を文庫で読んだ。いつどこでこの本を買ったのか、なぜ買ったのか記憶にないが、いつの間にか「最近買った本」を置く場所にあった。何となく、本から近づいてきた感じだ。
といのうのも、最近自分の中で、世の中や政治に対する不安、不満が急速に強まっていて、このままじゃ本当に危ない気がしている。この小説は、このまま行くとこんな国になるよ、というのを近未来の形で鮮やかに見せてくれたからだ。
小説は「朝、目が覚めると戦争がはじまっていた」で始まる。隣のB帝国の核射撃発射準備に対して、主人公たちの住むR帝国は空爆をして阻止する。ところがその陰で矢崎の住むR帝国のコーマ市では遠いY宗国の狂信的な地上部隊から攻撃を受けていた。矢崎はY宗国の女性兵士アルファに助けられる。
実はすべてR帝国の政府の仕込みで、反政府的な最北のコーマ市を粉砕して国民の結束を固める作戦だったというもの。国民はコーマ市を踏み台にして、敵国への怒りを高める。
国民はHP=ヒューマン・フォンと呼ばれるスマホの進化形を持つ。実はそれは政府に支配されているが、中には自立したHPもいて、登場人物と策略を練る。もう一人の主人公の栗原は弱小党の党首の秘書だが、保守党の加賀が近づいてゆく。
実は矢崎は栗原の父親が再婚した相手が生んだ子供で、つまりは腹違いの兄弟だった。栗原はサキを愛するが、サキの父親は反政府的な報道写真家で、母は内科医だった。両親は実は殺されて、サキは製薬会社の役員だった加賀が支配する。サキの母は国際ボランティアでT大陸のウィルス蔓延を防ぐ活動に参加する。
「過去に流行ったウイルスの変種が遠いT大陸で猛威を振るい,初めは数百人だった死者が,数千人にまで増えていた。
特効薬はないが,免疫力を劇的に向上させるある薬が有効とされていた。だがその投薬を中心に治療しても,致死率は七十%を超えた。身体中に覚えのない傷跡が出る奇病。
変種となる前のウイルスは,致死率九十五%だったが感染力は低かった。だが今回の変種は,以前は体液からの感染のみだったはずが,近づけば空気感染を起こした。
つまり致死率は低くなったが,感染力が激変した変種。その国際NGOの活躍で,何とか近隣への感染を防いでいた。国際保健機構は機能してなかった。」
この小説は「読売新聞」に2016年から17年に連載されて2017年に出版されているが、まさに現在の状況そのものではないか。この小説の後半にはこうした予言的記述があちこちにある。今日はここまで。
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