イタリアのサイレント映画にはまる:その(2)
時代順にイタリアのサイレント史劇を見直しているが、次に見たのが『クオ・ヴァディス』(1913)で、こちらはネロ皇帝の残虐ぶりをこれでもかと描く。元となったのは1896年に出たヘンリク・シェンキエヴィッチの同名小説で、すぐにイタリアや日本を含む各国で翻訳されている。
小説の舞台は古代ローマだが、小説にしたのはポーランド人。イタリアでその翻訳がベストセラーとなったのが、映画が作られた理由だろう。製作はローマのチネス社で監督はエンリコ・グアッツォーニ。
この映画の基本はキリスト教徒の美女リギアとローマに帰還した隊長のウィニキウスの恋愛だが、とにかく登場人物が多すぎで、原作を読んでおらず古代ローマ史の知識のない私はかなり手こずった。それでも印象に残るシーンがいくつもある。
一番はキリスト教徒たちを処罰するために、彼らを円形競技場に連れ出し、それをライオンの群れに襲わせるシーン。もちろん襲い掛かるシーンは写らないが、30頭ほどの吠えるライオンの群れの向こうに恐れおののく100人近いキリスト教徒たちの姿が見える。その後は、襲った後に残った肉をライオンたちがしゃぶるシーン。周囲には引き裂かれた衣服だけが散らばっている。
そしてそれを見ながら握手喝采するネロ皇帝や大観衆がいる。こうなるとかなりグロテスクで、当時の観客がこういうものを映画に求めていたことがよくわかる。そのほか、ネロの命令でローマの街に火が放たれて人々が逃げ惑ったり、宮廷で貴族たちが酔っ払って大騒ぎしたりと、群衆シーンが際立っている。
一番有名な『カビリア』(1914)は、久しぶりに全編を見るとかなりおもしろかった。こちらはシチリアの娘、カビリアの流転物語。小さい頃にエトナ山の噴火で行方不明になり、敵国カルタゴに売られる。モロク神の生贄に捧げられようとしたところを、乳母に頼まれたローマ人のフルヴィオとマチステの2人組が助け出す。
2人は捕まるが、フルヴィオは逃げ、マチステは王女ソフォニスバにカビリアを託し、ソフォニスバは侍女エリッサとして仕えさせる。マチステは奴隷として石臼を引きながら、逃げる機会を伺う。そこから10年ほどたって、フルヴィオはカルタゴに戻り、マチステを救い出す。彼らはカビリアを狙うカルタゴの大司教カルターロから彼女を引き離そうとするが、結局ソファニスバが自害してカビリアを解放する。
こちらもローマとカルタゴのポエニ戦争の将軍がたくさん出てきてわかりにくいが、フルヴィオとマチステの2人組が、少女カビリアを救い出す話として見ると、ずいぶん楽しめる。筋肉隆々で怪力のマチステは人気になり、彼を演じたバルトロメオ・パガーノを主人公にした「マチステもの」が20本以上作られ、その多くは日本でも公開されている。
そしてモロク神の神殿のセットの大きさに驚く。アメリカのD・W・グリフィスが2年後に作った『イントレランス』に影響を与えたのがよくわかる。そしてあちこちで使われる流麗な移動撮影も印象的だ。製作はトリノのイタラ・フィルム社で監督はジョヴァンニ・パストローネだが、映画の冒頭には小説家のガブリエーレ・ダヌンツィオの名前が大きく出てくる。どうも彼の知名度を使ったらしい。
今はこんな映画をユーチューブで見ることができるからすごい。さすがに日本語字幕はないが、多くは英語字幕付き。
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