『護られなかった者たちへ』の確かさ
10月1日公開の瀬々敬久監督『護られなかった者たちへ』を試写で見た。私と同世代のこの監督はエンタメ大作とインディペンデントを織り交ぜながら、毎年2本ずつくらい作っており、どれもレベルは高い。今回は大作の方だが、期待を裏切らなかった。
本作は東北大震災と生活保護という2つの大きな問題を扱ってこの10年を描き、20人ほどの登場人物を張り巡らせて、最後まで破綻がない。三宅裕司や原日出子のようなベテラン俳優たちが小さな役で細部を固める。見終わると、ずっしりしたものが残る。
冒頭、大震災直後の夜の避難所が写る。そのどうしようもない闇の光景に「本物」を感じた。物語は福祉事務所に勤めた男(永山瑛太)の死体発見から始まる。さらにもう1人、同じ事務所にいた男(緒方直人)も遺体で見つかる。
捜査をする刑事の苫篠(阿部寛)は震災で妻子を亡くしていた。苫篠は若い蓮田(林遺都)と組むが、捜査線上に福祉事務所に放火をして刑期を終えたばかりの利根(佐藤健)が浮かび上がる。苫篠の捜査で、利根は10年前に避難所で老女のけい(倍賞千恵子)と少女のかんちゃんと家族のように仲良くしていたことがわかる。
かんちゃんは10年後、殺された男たちと同じ福祉事務所に働く円山(清原香耶)となっていた。利根は逮捕されるが、彼の供述には不思議な点があった。そこからおどろくべき真実が明かされてゆく。
すべてを悟ったような阿部寛の佇まいがいい。そしてノーメイクで東北の老婆を演じる倍賞千恵子に胸を打たれる。複雑な役を演じる佐藤健には狂気が宿っていて、見ていても怖い。福祉事務所に勤めて殺される役を演じる永山瑛太が「いい人」と「仕事の効率」の間を行き来して何とも痛々しい。
真ん中にに大震災の痛みがあるが、それに生活保護を受ける人々とそれを受け付ける役所の人々の悩みや躊躇や葛藤が折り重なっていて、永遠に解決できそうもない。倍賞千恵子が一人で暮らす被災地の一軒家も、トラックやブルドーザーが行き来して作られる新しい町並みも、あまりにも負の痕跡が強すぎる。
そんなコテコテの不幸が山積みの映画で、正直言うとちょっと疲れたが。
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