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2021年9月22日 (水)

『先生、私の隣に座っていただけませんか?』に驚く

堀江貴大監督の『先生、私の隣にすわっていただけませんか』を劇場で見た。1988年生まれのこの監督の名前は聞いたことがあったが、見るのは初めて。予告編を一度見たら急に見たくなった。とにかく黒木華と柄本佑の表情があまりもおもしろそうだから。

予感は的中で、正直驚いた。柄本佑演じる俊夫は漫画家で、かつてのアシスタントだった佐和子(黒木華)と結婚している。最近は自分で漫画を描かず、もっぱら佐和子の手伝いをしている。俊夫は実は2人の担当編集者(奈緒)と不倫をしていた。

佐和子の母が骨折をして2人は佐和子の実家に住むことになってから、事態は進展する。佐和子は夫の不倫に始まり、通い出した自動車学校の先生と自分も不倫を始める漫画を描き始める。それをコッソリ読んだ俊夫は、すべて現実だと急に不安になる。そこに担当編集者もやってきて、混乱は極まる。

こう書くとつまらないが、これが漫画なのか現実なのかわからない瞬間が何度か訪れる。柄本佑が1人で大騒ぎするのが本当におかしいし、一方で黒木華はナイーブなようですべてを計画しているようでつかみどころがない。後半、この長い題名の意味に気づき、さらにラストの展開にびっくり。

この2人の俳優の顔や仕草を見ているだけで楽しい。彼らでなかったら、全く違う映画になったような気さえするくらい、映画は2人の身体そのもので作られている。彼らと拮抗する形で、漫画を描く過程やでき上がりもきちんと見せているのもいい。その分、母を演じる風吹ジュンなど脇役はどこか焦点が定まっていないが、それも意図的なものだろう。

見ながらおもしろいけど、少し退屈もした。所詮漫画で何でもありで、どこにもリアリティがないようにも思える瞬間も何度かあるからだ。たぶんそれも織り込み済みの路線なのだろうけど。

それにしても、これが企画から脚本まですべて堀江監督が手がけたオリジナル作品というのがすごい。逆にそうでなければ、これほど自由な作品は作れなかっただろう。私は連休の夕方に見たが、客は少なかった。若い観客が見たら絶対にウケると思うのだが。

 

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