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2021年9月20日 (月)

『人と仕事』から見える現代日本

10月8日公開の森ガキ侑大監督『人と仕事』を見た。プロデューサーの河村光庸氏から見て欲しいと連絡があって初号試写で見たが、ちょっと妙な魅力の映画だった。もともとは『保育師T』という劇映画だったことは、映画の冒頭で語られる。

志尊淳と有村架純というスター2人が演じるはずだったがコロナ禍で中止となり、ドキュメンタリーとなった。映画ではこの2人が保育士を始めとして、さまざまな人に話を聞く。最初は渋谷の路上に午前2時にいる若いカップルに志尊が話しかけて驚かれる。

保育所では、コロナ禍で保育士が子供たちと直接の接触ができないのがもどかしいと語る。児童相談所では相談員がコロナ禍で仕事を失って子供を養えない家族が増えたことを語る。これは期せずしてコロナ禍で苦しむ人々を描く映画になったのだと思い至る。

あるいはコロナ禍で普通の仕事を失って風俗関係に働き始めた女性が出てくる。ホストクラブの社長も出てくる。みんなコロナ禍で当初自分たちが元凶のように語られたことを嘆く。

児童養護施設がかなり長く写される。保護者のいない子供、虐待を受けた子供たちが集まって来る。2020年はコロナの影響で児童虐待が増えて、全国で10万人に達したという。施設の中でしっかりと育ってゆく青年も出てくる。ある男性はその施設から高校に通って卒業し、4月1日、みんなに見送られて就職した会社へ向かう。

インタビューは一部は監督のみで2人は出てこない。個々のインタビューは短いので、コロナ禍を描くドキュメンタリーとしてはあまり深いものではないかと思っていると、1時間くらいして2人のスターに焦点が当たり始める。

有村は芸能活動を「嫌になる」が「楽しければいいやと思う」。そして「演技では自分の一部しか見せていない」と悩む。志尊は「シンプルに芝居を続けたいだけ」と言いながらSNSでの発信を始めるが、ある時急性心筋炎で倒れてしまう。そして3週間後の復活。

映画には何度も出される緊急事態宣言や感染者の数の増大が挿み込まれる。劇映画ができないということで作られた安易な企画のように見えて、実は現代日本をきちんと写そうという監督や俳優たちの誠実な視線が感じられる。コロナ禍を日常的な眼差しで撮ったありそうでないドキュメンタリーとして、後年重要な映像となるのではないか。

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