東京国際映画祭はどう変わったのか:その(1)
今年の春に「東京フィルメックス」の市山尚三さんが東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターになり、フェスティバル・ディレクターだった久松猛朗さんとシニア・プログラマーの矢田部吉彦さんが退任した。2019年に久松さんの上の「チェアマン」に就任した国際交流基金理事長だった安藤裕康さんが、ここへ来て一気に「人事」を進めた感じ。
ある関係者が「役所のトップは人事をやるんだなあ」と言うのを聞いた。安藤さんは外務省出身で橋本や安倍の総理秘書官をやり、国際交流基金の理事長もやっているので、怖いものなし。かつてチェアマンに当たるポストにいた一人は「誰も矢田部さんを変える勇気はない」と言っていたから、映画界では代えられなかったのだろう。
去年は選考委員という制度を作り、市山さんを数名の一人に加えた。しかし作品の選定に選考委員の色はかすかに見えるくらいだった。その選考委員は市山さんを映画祭に取り込むアリバイだったかのように、今年は彼一人に任せてその障害になりそうな二人を切った。
一昨日の午後に、オープニングセレモニー+上映とクロージング+上映の招待状が届いたので驚いた。これは昔からもらっていたが、5年ほど前から来なくなり、3年前からはパーティの案内も来なくなった。私は2012年から東京国際映画祭の強い批判を朝日新聞デジタル「論座」に毎年書いているのでその影響かと思っていたが、新聞記者にも来なくなったと聞いていた。
そんなことより驚いたのは、その日に開かれたラインナップ発表会の結果を夜にHPで見た時だ。コンペの16本にこれまでのように、アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアの作品がない。去年までは世界地図を見るように世界各地からバランスよく選ばれていたが、今年はアジア、中東、中南米、東欧のみ。あえて言えば、モロッコの少女を5年間描いたイタリア映画『カリフォルニエ』はあるが(本国の予告編を見たが強烈なナポリ訛り!)。
そして何より、フィリピンのブリランテ・メンドーサ監督とイラン出身のバフマン・ゴバディの新作がワールド・プレミア(世界初上映)で入っている。このクラスのワールド・プレミア上映はここ10年ほどなかったように思う。
カンヌ、ベネチア、ベルリンの三大映画祭はヨーロッパの映画祭なので、どうしても欧米中心のセレクションになる。最近はそれ以外の地域の映画がどんどんレベルアップしているが、もはや入りきれない。アジアの東京国際映画祭はそこを狙うべきだと私は主張してきたが、ほぼそうなった。惜しむらくは数本がワールド・プレミアではなくアジアン・プレミア(アジア初上映)のことだろう。
もう一つの驚きは、正月映画のショーケースのような「特別招待作品」がなくなったこと。あくまでクォリティを軸に「ガラ・セレクション」があり、アビチャッポンやジェーン・カンピオンやウェス・アンダーソンなどの巨匠の新作がある。私は「特別招待作品」がまさに映画業界の悪習だと思って長年批判してきたが、初めてそれが実現された。今日はここまで。
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