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2021年11月 1日 (月)

還暦になって:その(13)

実は東京国際映画祭のオープニングでクリント・イーストウッドの『クライ・マッチョ』を見て、心の奥底に訴えかけるものがあった。それは「還暦」と深く関係があるので、このシリーズで書く。イーストウッド演じるマイクはかつてはロデオの騎士で有名だったが、落馬事故をきっかけに落ちぶれていた。時代の設定は1978年。

マイクはかつてのボスの頼みで、メキシコに住む彼の息子、ラフォを連れ戻しに行く。「おまえの言うことはきっと聞くから」というので国境を越えてメキシコへ出かけたが、彼の母親レタはとんでもない女でラフォは家に住んでいなかった。

マイクはごろつき達と闘鶏の賭けをしていたラフォをどうにか連れ出す。最初はマイクを信用していなかったが、ラフォは次第に打ち解ける。そのきっかけは近所の荒馬を手なずけたことだ。91歳のイーストウッドは逃げ回る馬に乗り、少しずつ慣らしてゆく。その後にラフォが乗って操り方を学ぶ。

馬だけではない。マイクはラフォの鶏(名前はマッチョ)も犬もなんでも仲良くなり、落ち着かせる。そのさまに、近所の人々は問題のある動物を持ってきて、意見を聞く列ができるほど。メキシコ警察とラフォの母親レタが手配した男に追い回されて逃げ回る2人を匿ったのは、カフェを経営する女、マルタだったが、マイクはマルタにもすぐに気に入られる。

もともとマイクはテキサスからオンボロ車を運転してやってきた。それを盗まれて、ラファとさらにひどい車を探して乗るが、何とか修理する。マルタの家に行けば自ら料理を作る。壊れたステレオを修理して、みんなで踊り出す。簡単な手話もできるので、耳の不自由なマルタの娘とすぐ仲良くなる。

その現実対応能力の高さに、ラファはマイクを師と仰ぐ。還暦の私が思ったのは、異国で10歳くらいの少年に会って、自分は何ができるか、ということ。車の免許は持っているが、運転は何十年もしていない。もちろん修理もできない。そもそも機械オンチで、ステレオの修理なんてできるわけがない。

昔、実家には犬や猫がいたが、自分で動物は飼ったことがないので、猫一匹手なずけることもできない。まして馬なんて触ったこともない。手話も知らない。マイクがやったことで辛うじてできるのは、家庭料理と女と仲良くなることくらいか。

偉そうに大学で教えているが、現実には私は何もできない。手に職は無理でも、自分の手足で何かできるようになりたい。外国でなくても、出会った見知らぬ子供にせめて好かれる老人になりたい。これが還暦から後の目標だと、あの映画を見て素朴に思った。

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