『コレクティブ 国家の嘘』に震える
今日公開のルーマニアのドキュメンタリー映画『コレクティブ 国家の嘘』をオンライン試写で見た。後期の授業が始まってドタバタの2週間、試写に行く時間はなかったが、ようやくちょっと余裕ができた。アレクサンダー・ナナウ監督で、アカデミー賞で国際映画長編賞とドキュメンタリー賞の2部門のノミネートに残った作品。
さらに32の国際映画祭で賞を取っているという。見るとそれはよくわかった。どこの国でも起こりそうな汚職と戦う人々を丹念に追いかけており、サスペンスたっぷりだから。
題名の「コレクティブ」は、2015年に火災が起きたブカレストのコンサート会場を指す。27人が死亡し、180人が負傷した事件で、施設管理の責任を巡って、社会民主党政権は退陣した。実際に会場にいた者が撮った火災の瞬間の映像も出てくるが、問題はその後。負傷者は複数の病院に運ばれたが、その後数ヶ月の間にさらに37名が亡くなった。
その理由がどうもわからない。この事件を追いかけていた「スポーツ・ガゼット」紙(スポーツ紙!)のトロンタン編集長は、消毒液が薄められていたという証言を掴んで新聞に載せる。それをテレビが追いかけて国中が大騒ぎになる。
前半、カメラは呆れかえりながらもふてぶてしく執拗に事件を追いかけるトロンタン記者とそのチームを追う。「ヘキシ・ファーマ」という製薬会社が1/10に薄めた消毒液を出していることは既に10年前にから何度もSRI(ルーマニア情報局)に報告されていたが、政府への報告はどこかで止まっていた。追及された保健相は辞任してしまう。
ヘキシ・ファーマ社はトンネル会社をキプロスに作り、蓄財をして病院や政治家に賄賂を贈っていたことが判明。逃げ回る社長は謎の死を遂げた。そこで新しい保健相が任命される。若いヴォイレスク大臣は、病院にも問題があることを悟り始めた。映画の後半はこの大臣の奮闘を描く。
ある大病院の理事長は、薬などの購入に間に元市長が経営する会社を入れて、病院の出費を自らに戻していた。大臣はこの国の医療は腐っている、官僚の9割が悪人だと言いながら、どこまでも追いかける。ブカレストの女性市長はそんな大臣をテレビで派手に攻撃する。
そして総選挙があり、保守の社会民主党はこれまでにない圧勝。大臣の父は「この国はあと30年は変わらない。君が勉強したウィーンに戻った方がいい」と言う。大臣は「私たちがしたことは少しは残るかな」と呟いて去ってゆく。彼のスタッフには「君たちはマフィアの巣窟に足を入れた」と脅迫が届く。
最後まで震えるような思いで見た。あんな腐敗事件が相次いだのに、結局、保守が選挙で勝つラストは、まるで日本のようだと思ってしまう。日本の医療はずっとましだが、政治は同じレベルだから。ああ、もうすぐ総選挙。今、必見の映画。
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