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2021年10月18日 (月)

「よみがえる台湾語映画の世界」に参加して:その(3)

今回、辛奇(しん・き)監督(1924-2010)の映画は4本上映されたが、一番古い『地獄から来た花嫁』(1965)を見て、この監督の真骨頂はサスペンスやホラーにあるのではないかと思った。冒頭にハンサムな男、ギビンの妻が亡くなるシーンが出てくるが、キザな髪形や身のこなしが若い頃の宝田明を思わせる。

 

ある男性が水死体で見つかり、仲良かったギビンの妻のハンドバッグもあったことから心中と見なされるが、妻の死体は出てこない。自分の姉が死んだという知らせを受けたシンガポールに住む妹は、その怪死の謎を解くためにベイ先生と名乗ってギビンの娘の家庭教師を始める。

台中のギビンの大邸宅には姉の部屋があり、そこからいくつもの手がかりが出てくる。ギビンの従兄弟の兄妹はいかにも怪しいし、最初はギビンも信用できない感じ。ベイ先生は前任者に会いに行き、屋敷の横の仏塔に手がかりがあることを知る。そこを探索しようとするとギビンの従妹が出てきて手伝うが、ベイ先生は閉じ込められる。そこには姉の死体があった。

あやしい従兄弟の兄妹に加えて屋敷のメイドや庭師、そしてギビンの娘ともう一人の娘など、みんなどこか影がある。冒頭の海岸のシーンには壮大なワーグナーの音楽が響き、みんなで閉じ込められたベイ先生を探しに行く時は何と「007」の音楽が流れる。最後はギビンとベイ先生の結婚式の最中に従妹が逮捕されるというやり過ぎの演出がいい。「そして二人は愛し合った」などナレーションに相当する内容が何度か歌で流れるのもおかしかった。

『地獄から来た花嫁』が辛奇監督で一番よかったが、もう1人の林搏秋(リン・ハクシュウ)監督の3本では『第6の容疑者』(1965)が際立っていた。1965年に完成されたが、出来に不満だった監督が封印して90年に公開されたという。そういう作品に限ってすばらしいことは多い。冒頭、車の中から夜の街が写される。

髭を生やしたティン・コンフイが車から降りてかつての恋人、タイギョクを訪ねると恋人が出て行くところだった。男は同じ会社のヤプ係長で会長の娘と結婚が決まっていながら、会長の秘書のタイギョクとできていた。ヤプは結婚すれば金持ちになるから、タイギョクにお金を流すという。会長の娘は、実はヤプより同じ会社のチーシンが好きだった。

さらに会長は秘書と関係があり、会長の弟のラウ係長は既婚者でありながら愛人がいて、さらに業者と図って会社の金を横流ししていた。コンフイは探偵のように追いかけて証拠写真を撮り、全員を脅してお金を受け取っていた。ここまでが物語の半分で、真ん中あたりでコンフイの死体が発見される。

後半は刑事と新聞記者がコンビで犯人を探る。みんながコンフイに秘密を握られているし、いかにも怪しいので容疑者は多いが、アリバイがあって犯人は見つからない。6人目の容疑者であるタイギョクをようやく探し当てると、彼女は殺されていた。真犯人は意外なところに、という展開だが、全体にB級映画感が漂っていて見ていて楽しい。音楽はクラシックを使い放題で、ジャック・タチの映画音楽まで流れてきたのには驚いた。

 

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