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2021年10月 8日 (金)

『ボストン市庁舎』は必見

11月12日公開のフレデリック・ワイズマン監督の『ボストン市庁舎』を試写で見た。272分、つまり4時間半を超す映画だが、それだけの時間を費やす価値が十分にある必見の大作だと思った。「ワイズマンはいつも同じ」ではなかった。力の入れ具合が違う。

「ワイズマン」と言えば、ナレーションなし、インタビューなし、伴奏音楽なしで、「ある世界」にひっそりとカメラを向け、みんなが働き、話し、動く様子を時々場所を変えながら静かに重ねてゆく映像を思い出す。病院も動物園もオペラ座も美術館も図書館も大学も、まるでカメラマンは透明人間になったように、「ある世界」の中をくるくると動き回り、いつの間にか全体像を浮かび上がらせる。

今回もそうで、コンピューターを前に市民からの電話の問い合わせに応じる市職員に始まって、警察との会議、市民向けの予算説明会、建設現場のチェック、ゴミ回収、レッド・ソックスの祝賀パレード、エスニック料理教室、ネズミ駆除などなど、一つの場面はたぶん5分から10分でえんえんと場所の説明もなしに続く。

題名は「ボストン市庁舎」だし原題もCity Hallなので、いわゆる市役所の中が写るのだと思っていた。証明を取りに来たり、福祉の相談に来たりする市民と市職員の触れ合いを描くのかと。これまでの『パリ・オペラ座のすべて』も『ナショナル・ギャラリー』も『ニューヨーク公共図書館』も、大半は建物の中をカメラがめぐる。

ところが今回はほとんど市庁舎の中にカメラはない。カメラが捉えるのは市庁舎の外で温暖化問題などさまざまな会議に出る市長であり、市の幹部であり、あるいは道路の舗装をしたり駐車違反切符への異議申し立てに対応したり地層の調査をしたりする市の職員である。つまりカメラは市庁舎を出て市の仕事を見せる。これは今回の新しい点だろう。

もう1つ新しいのは、市内の赤レンガの古い建物から最新の高層ビル、木造住宅、港湾、道路、公園など市内のさまざまな場所のショットが挿み込まれることだろう。長い歴史を誇る古都の秋から冬にかけての光景が、答えのない長い会議のシーンの後に出てくるとほっとする。ボストンは監督が住んでいる街だが、まさに土地への強い愛情が感じられる。

さらに新しいのは、市長を中心にとらえて称賛していることだろう。ワイズマン監督はスターや中心人物に焦点を当てないで、無名の人々の仕事を見せる。今回もそうだが、それでも市長が会議で話したり、退役軍人会でスピーチをしたりという場面が多い。

ラストにアメリカの国家が歌われ、市長が施政方針演説をする場面があるが、「アメリカの民主主義はすばらしい」と思わず感動してしまった。ワイズマンがこのようにストレートに政治的な立場を表明するとは。今回の映画は本気で勝負をかけている。

そこで市長は「ボストンは良くなっているが、国が心配だ」と漏らす。もちろんトランプ政権のことだが、映画が作られた時点は大統領選挙の前で、トランプが負けるかどうか全くわからなかった。その中での監督の正直な政治的立場の表明が、まっすぐに観客の心を打つ。

ボストンのウォルシュ市長はこの3月からバイデン政権の労働長官をしており、後任のジェイニー市長は女性で黒人という。この映画を見ると、まだまだアメリカには、そして世界には希望があると思いたくなる。今年後半の必見の大作!

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コメント

これは実に必見そうですね(汗)

そんな新機軸が次々と登場するとは!

投稿: onscreen | 2021年10月12日 (火) 07時05分

なぜ今回さらに飛躍したか興味を持ったのでさくっと調べてみました。

するとわかったのは、ボストンはワイズマンの故郷のようですね。
そりゃ力入るわけだ〜とガッテン(笑)

11/12が楽しみです!

投稿: onscreen | 2021年10月12日 (火) 08時55分

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