『クーリエ:最高機密の運び屋』を楽しむ
予告編で気になっていた『クーリエ:最高機密の運び屋』を見た。もともとスパイものは好きだし、「クーリエ」というフランス語から来た言葉は、展覧会関係者にはお馴染みのものだ。「クーリエ」とは美術品を輸送する際に、作品と同じトラックや飛行機で移動する同行人を指す。貴重な作品輸送中に問題が起きないかをチェックするのが仕事だ。
多くは貨物便に乗り、2、3人の乗務員と狭い客室に座る。何時にどこに到着といったデータをノートに書き込んでゆく。飛行機が着くと、貨物の取り出しやトラックへの積み込みに立ち会い、トラックに乗る。私も1度だけやったことがあるが、何だか「闇仕事」の感じだった。
この映画のグレヴィル(ベネディクト・カンバーバッジ)はソ連から機密文書を運び出すのだから、本物の「闇仕事」である。1960年、東欧に機械を売り込んでいたロンドンのビジネスマン、グレヴィルは英国の諜報機関、MI6とアメリカのCIAのエージェントに頼まれて、ロシアへ行く。そこには西側に機密情報を流して亡命を狙うオレグ(メラーブ・ニニッゼ)がいた。
グレヴィルの役割はオレグから文書を預かってMI6に届けるだけで、中身も知らない。それは実はソ連がキューバに核兵器を設置する情報で、それを知ったケネディ大統領はソ連に対して警告を発する。こうしてキューバ危機は回避されたが、そんなことはグレヴィルもオレグも知らない。
2人はどんどん仲良くなるが、次第にソ連のKGBは彼らをマークし始める。危機を悟ったMI6はグレヴィルを解雇しようとするが、彼はオレグの亡命を助けるためにもう一度モスクワに行き、CIAのエージェントの女性(レイチェル・ブロズナハン)も同行する。しかしモスクワからグレヴィルとオレグとその家族が出国ギリギリのところで、敵の手が回る。
何気なく始まるが、見ているとだんだん怖くなり、終盤にグレヴィルが逮捕されてからは背筋が寒くなる。監視と盗聴を巧みに避けながら動き回り、会話をするカンバーバッジとメラーブ・ニニッゼの存在感がすごい。彼らの友情に心は温まるし、それぞれの家族とのやりとりも暖かい。投獄されたオレグは一度だけグレヴィルに会う。彼が「君のおかげでキューバ危機は回避された」というグレヴィルの言葉を聞くことができてよかった。
そうした緩急のタイミングが良く、最後まで飽きない。監督は英国の演劇では大御所のドミニク・クックという。英国ではよく舞台の演出家が映画を作ることがあるが、これがだいたい当たりだ。傑作というほどではないが、的確な演出で十分に楽しめた。「冷戦」を知るのに格好の一本だ。
それにしても、共産主義はどうして恐怖政治になるのだろうか。今のロシアにもその傾向は残っているし、中国は北朝鮮はもっと怖い。
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