オンラインで見る山形国際ドキュメンタリー映画祭:その(2)
今回、どうしても見たいと思ったのが、香港で撮られた『理大囲城』。監督名はなく「香港ドキュメンタリー映画工作者」と書かれている。もちろんこれで名前が出たら間違いなく逮捕されるから。映画の中でも明らかに顔がわかるようなショットには、ぼかしがある。
といっても、ほとんど顔はわからない。出てくる人々の多くは防護マスクをしているから。舞台は香港理工大学で、数千人の若者達が学内に籠城して警察隊と睨み合っている。これは香港で嫌疑をかけられた者を中国本土に引き渡して裁判ができる「逃亡犯条例改正案」に対するデモから始まった。
大学構内には高校生もいたから、おそらくデモから追い詰められて大学内に籠ったのだろう。大学の四方を警察が取り囲み、脱出しようとする学生は逮捕される。集団での投石などで何とか立ち向かうが、鉄棒でボコボコに殴られて車に押し込まれる。学生はマイクで警察を罵るが、警察は流行歌を流して無視する。
籠城が何日もたつと教室では夜も寝られず、「家に帰りたい」という学生が増える。あちこちに空のペットボトルが転がっている。数日たった頃、そこに高校の校長と名乗る数名が現れて、自分達と外に出ればすぐに家に帰れると説得する。いかにも怪しいが、校長先生たちの説得に何百人もがついてゆく。
13日の籠城で1377人が逮捕。これらの映像を撮っていたのは、大学構内に残った数少ないジャーナリスト達だという。警察は「撮るな」と叫び、警棒を向けてくる。「この映像を1万人がライブで見てるぞ」と言いながらジャーナリストは逃げ回る。
私は1960年代後半の学生運動の映像を思い出した。例えば小川伸介の『圧殺の森 高崎経済大学闘争の記録』(1967)はまさに学生たちの学内の籠城の日々を見せる。しかしこれに比べたらずいぶん牧歌的だった記憶がある。
この後に見たのが、中国のジャン・モンチー監督『自画像:47KMのおとぎ話』。47KMと呼ばれる湖北地方の寒村で撮り続けた第9作目という。こちらは何とのどかな光景だろう。村に新しくできる家をめぐって、7、8人の子供たちが騒いでいる。どんな家がいいか話したり、絵を描いたり。
子供たちは小型のカメラを2台持って、撮影を学んでいる。監督が撮った高画質の映像に子供たちの映像が混じる。あるいは夜になると子供たちのシャツに監督が数年前に撮った映像が映し出される。永遠の田舎と子供時代に映像の自己言及を織り混ぜながら、映画は楽園そのものを写す。
香港を強力に弾圧している中国にはこんな呑気な世界があるなんて、なんという皮肉だろうか。あの子供たちはもちろん香港のことは何も知らないだろう。この落差に頭がクラクラしたが、これが山形だったらこの気分を誰かに話せるのにと思う。
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コメント
小川伸介 ☓ ⇒ 紳介 〇
投稿: | 2021年10月12日 (火) 08時02分