東京国際映画祭はどう変わったか:その(8)
結局、東京国際映画祭はどう変わったのか。まず、国際的に見て初めてまともになった。コンペはアジアの映画祭らしくアジア映画を中心に据えて、ワールド・プレミア(世界初上映)を増やした。正月映画のショーケースだった「特別招待作品」はなくなり、日本公開の決まっていない作品も含めて今年の各地の映画祭に出た話題の作品を「ガラ・セレクション」として並べた。
かつては2年前のベルリンに出た映画でも日本公開が東京国際映画祭後だと「特別招待作品」に含まれたが、それは海外から見ておかしいのでなくなった。つまり外国人が英語でラインナップを見ても、トロントや釜山と似た感じに見えると思う。
久しぶりにデイリーの映画祭新聞が復活したのも、国際性と言えるかもしれない。海外の映画祭では必ずある英文併記の日刊ニュースが、この10年ほど東京からはなくなっていた。今年のTIFFTimesはわずか4ページの見開きなので、もっと厚くして欲しいが。
国際性ともつながるが、今年の映画祭には「知性」が感じられた。審査委員がゴダールやシャブロルやハネケの映画に出たイザベル・ユペールを委員長に、映画通の青山真治監督、映画祭運営の経験豊富なローナ・ティー、マニアックな映画評論家のクリス・フジワラ、作家性の強い監督と組んでいる作曲家の世武裕子の各氏で、全員が知的な陣容だ。
これまではハリウッドの大作のプロデューサーなどアート系映画とは関係のない審査委員が複数いたので、せっかく秀作が出ていても無冠のことが多かった。今回の受賞結果はおおむね妥当で、上映作品にふさわしい審査の陣容だったのではないか。
その知性は「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」にも表れていて、イザベル・ユペールと濱口竜介監督とかブリランテ・メンドーサと永瀬正敏とかアピチャッポン・ウィーラセタクンと西島秀俊などの組み合わせにも顕著に表れている。こんな対談は従来の東京国際映画祭では考えられなかった。
今回の最大の問題は会場にあった。コンペの多くが200席前後の日比谷シャンテで、これにガラ・セレクションがよみうりホールだと、かつてのTOHOシネマズ六本木の大きなスクリーン及びEXシアターと比べて席数が少なすぎる。コロナ禍以前の2019年には上映本数183本に対して64,492人だったが、今年は126本に対して29,414人で、観客数は半分以下になっている。
会場が足りないから本数が減ったとプログラミング・デイレクターの市山尚三氏は言っていたし、そうでなくてもシャンテではなく大きなスクリーンを持つTOHOシネマズ日比谷をなぜ使わせないのかと、誰もが思うだろう。
TOHOシネマズ日比谷が中心ならば、今回のように会場が分散する必要もないだろう。あるいは東京都が所有する東京国際フォーラムをなぜ使えないのかとも思う。もちろん将来的には専用会場が欲しいのだが。
そんなことを朝日新聞デジタル「論座」に書いた。今朝の10時頃アップされ、48時間は無料で読めるので、ご一読を。
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