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2021年11月16日 (火)

映画祭の中の2つのシンポ

今年の東京国際映画祭と東京フィルメックスでは、リアルタイムで2つのシンポを聞いた。1つは「独立映画鍋」が東京フィルメックスとの共催で開いた「映画と労働2 世界の撮影現場とハラスメント対策」で、舩橋淳監督の司会で映画監督の深田晃司さん、ヤン・ヨンヒさん、ニアン・ヴィッチさん(カンボジア)がオンラインで集まった。

まずヤン・ヨンヒ監督が新作ドキュメンタリー『スープとイデオロギー』を韓国で撮影した時の話をした。KOFIC(Korean Film Council=韓国映画振興委員会)から助成金をもらったら、性暴力防止レクチャーを受ける義務が生じた。主要なスタッフやキャスト10人ほどで派遣された講師から1時間半たっぷり話を聞いたという。

韓国の監督たちは映画業界がよくなれば自分にも帰ってくるという考えを持っている。その立場で監督協会として釜山などの映画祭やKOFICを批判することもある。撮影は週52時間を超えてはならないという規則がある。韓国はロールモデルを決めることが多いが、ハラスメントに関してはアメリカの監督協会から学んだ。

深田晃司監督は現在新作を作っているが、撮影を始める前にスタッフとハラスメント研修を1時間受けたという。20年前に助監督をした時は、「テメエ殺すぞ」と言われたり、殴られたりといったことが横行していた。低予算ゆえに夜中まで撮影し、ハラスメントが普通だった。

ある最近の調査が紹介された。撮影現場のハラスメントを誰かに相談できたのは、半分しかいなかった。そしてハラスメントを受けた4人に1人は映画界から去っていった。結局、映画業界で相談窓口がないことが問題なので、制度として作らないといけないと深田監督は言った。

ニアン・カヴィッチ監督はフランスとの合作の際にフランス人スタッフが1日8時間労働が原則で長くて10時間だったのに驚いた。彼は撮りたかったカットを諦めたが、監督はそうする必要があると思ったという。

そういえば私の学生でも映画の現場に潜り込んで、「もう現場はコリゴリ」となった者が何人もいる。この問題は大学でも語るべきだろう。

もう一つは東京国際映画祭で田中絹代特集が開かれた「女性監督のパイオニア 田中絹代トークイベント」で、クリスチャン・ジュンヌ氏(カンヌ映画祭代表補佐 映画部門ディレクター)がフランスでの最近の6本の監督作品の上映について語り、三島有紀子(映画監督)、斉藤綾子(明治学院大学教授/映画研究者)、冨田美香(国立映画アーカイブ主任研究員)の各氏が座談会をした。

これまた興味深い内容だった。ジュンヌ氏はフランスでは田中絹代が監督をしていたことはほとんど知られていなかったと語った。単に監督をしただけでなく、『乳房よ永遠に』のような傑作まで残していたというのはほとんどスクープに近かったという。この後は後日。

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