『ファイター、北からの挑戦者』に考える
韓国映画『ファイター、北からの挑戦者』を劇場で見た。予告編を見て、北朝鮮から韓国にやってきた若い女性がボクサーとして活躍するなんて、ぜひ見たいと思った。
私はボクシングジムにバイトに来た若い女性が、脱北者ならではの不屈の根性でどんどんスターダムへのし上がっていく映画を想像した。ところがそれはかなり違った。彼女が試合に勝つシーンはほとんどなく、むしろ負けてしまう場面をしっかり写す。あるいは練習の合間のつらい時間を見せる。
北朝鮮から中国経由で韓国に来たジナは、同じ脱北者の男性から紹介されて居酒屋で働き始める。中国に残っている父親のためにもっと稼がねばと彼女はボクシングジムの掃除のバイトを始める。そこで女性が訓練を受けているのをじっと見ていたことから、トレーナーのテスにやってみたらと勧められる。
テスを相手にトレーニングをするといきなりプロのようなパンチをする。驚くテスに「軍隊にいましたから」となにげなく言うジナ。これから大進撃が始まるかと思いきや、ジナにはいろいろ悩みがあった。
まず、アパートを紹介した不動産屋の社員が家で待ち伏せして迫ってくるので一撃で倒すと、後日治療費を請求してきた。ジナには何年も前に自分と父親を捨てて韓国に暮らしている母がいて、ある時会いに行くが気持ちは落ち着かない。母親は新しい夫や娘と豊かな暮らしをしていた。
ジムに通う女性OL達からは「脱北者」「掃除のバイトがなぜ」とバカにされる。さらに父親が中国で公安警察に捕まったというニュースが来る。唯一の救いはトレーナーのテスで、ジナのひたむきな様子を気に入って遊園地に誘う。最初は馬鹿馬鹿しいと思っていたジナは、だんだん楽しくなり、それまでいつも難しい顔をしていた表情が一気に和らぐ。可愛らしい娘の顔が中盤で初めて出た。
練習を見てジナの才能を見込んだジムの館長はプロ入りを勧め、スポンサーもつく。しかし肝心の試合で、母親が見に来ていたためにジナは動揺して負けてしまう。母親やその娘との関係に悩むジナ。しかしジナは何とかそれを乗り越える。
映画の半分は引きつったような顔のジナをアップで見せる。その幾重にも重なった葛藤がようやくほぐれかけたところで終わる。見終わって、これはボクシング映画という形を借りた「脱北者」問題に迫る映画だったことがわかる。韓国に住む脱北者のことなんて、考えたこともなかった。監督は長編劇映画2本目のユン・ジェホ。
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