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2021年11月 9日 (火)

東京国際映画祭はどう変わったのか:その(7)

東京国際映画祭は結果が出たが、コンペ外の作品も少し見たので触れておきたい。「アジアの未来」のトルコ映画『最後の渡り鳥たち』。イフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズという女性監督の第1回長編で、トルコ南部の遊牧生活をする家族を描く。

この映画で強烈なのは祖母のギュルムス。足が悪くアパートに住みたいという夫やトラクターを買おうとする娘婿を「頭をかち割るぞ」と怒鳴り散らし、我が道を行く。周りは遊牧から定住に切り替えた家族も多く、ギュルムス以外のみんなの心は揺らぐ。遊牧を続けようとする祖母に従うべきか。こんな辺境にも押し寄せる現代社会を丁寧に描いた作品。2.5点。

東京フィルメックスでは特別招待作品でイスラエルの『アヘドの膝』を見た。監督のナダヴ・ラピドは『シノニムズ』が相当な不協和音を起こす作品だったが、そのパワーは健在。今回は監督Yが主人公で、冒頭はパレスチナ人活動家のアヘドをめぐる映画を撮っている様子。監督はその最中にアラバという地方から招待されて、上映後の講演をする。

アラバでは文化局次長の若い女性が出迎えるが、Yに対して講演の内容を政府寄りのものに絞るよう要請し、サインを求める。Yはサインをするが、講演の途中でとんでもない行動に出る。今回も最初からいろいろな音や映像が混入し、見ていて不快になる。それが内容の過激さと微妙に合っていて、異常な世界を作り出している。3.5点。

同じく東京フィルメックスの特別招待作品、中国のチャオ・リン監督の『行くあてもなく』は、チェルノブイリと福島のその後を中心に、原発の現在を探るドキュメンタリー。チェルノブイリで立ち入り禁止区域に一人で住む老人、福島の禁止区域の廃墟、福島やドイツの除染作業、チェルノブイリ近くの重度障碍者施設などを行きつ戻りつする。

カメラはそれらをひたすら凝視する。チェルノブイリの障碍者施設は水俣病の世界と同じだし、2022年に原発を廃棄すると決めたドイツの除染作業は気が遠くなるほどいつまでも続き、フィンランドの核廃棄物最終処理場は巨大でいつまでたっても出口にたどり着かない。同じ監督が中国の炭鉱の悲惨さを描いた『ベヒモス』(2015)ほどの衝撃はないが、今回の方がより思索的か。3点。

東京国際映画祭のコンペでルーマニア出身のテアドラ・アナ・ミハイ監督がメキシコで撮った『市民』について触れるのを忘れたので書いておく。これはメキシコ北部に暮らす女性のシエロが年頃の娘を誘拐された事件を追う。元夫は頼りにならず、警察は相手にしてくれないので、知り合いや娘の恋人や元夫の愛人まで疑って、一人で娘を追う。

その結果出てきた犯罪組織の情報を警察に渡して一緒に娘を探すが、組織は複雑に絡み合い、警察は暴力をいとわない。それでも悪魔に憑かれたように娘を探し続ける母の姿が強烈だ。3.5点。この映画は審査員特別賞を得た。

結局、コンペであってもなくてもフィルメックスでも、秀作はあちこちにある感じ。アジア映画がこれだけ強くなると、カンヌやベネチアはとてもカバーできない。東京国際映画祭もフィルメックスも、今の時期の開催でも十分に存在価値はある。

 

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