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2021年11月 2日 (火)

東京国際映画祭はどう変わったのか:その(3)

なぜか、映画祭の最初にコンペに2本しかないヨーロッパ映画を見た。スペイン映画のマヌエル・マルティン・クエンカ監督『ザ・ドーター』は、スペインらしいちょっとダークなサスペンス映画。青年更生施設にいる妊娠中の娘イレーネはそこを抜け出すが、行ったのは施設の職員・ハビエルの家だった。

ハビエルは妻のアデレに子供ができず、イレーネの生まれてくる子供をもらうことを条件に、その脱出に手を貸す。しかし子供の父親のオスマンが刑務所から出所してイレーネと会ったあたりから、計画は狂い始める。最後はいくつもの殺人の果てにイレーネが子供を連れて抜け出すが、そこに至るまでのサスペンスとグロテスクな感じはなかなか。ある種のジャンル映画で、公開も可能だろう。3.5点

アレッサンドロ・カッシゴリ&ケイシー・カウフマン監督のイタリア映画の『カリフォルニエ』は、イタリア南部のナポリ郊外に暮らすモロッコ移民の娘、ジャミーラを9歳から5年間をかけて追う。最初はボクシングジムでがんばっていたが、やめてしまう。移民のせいか友達もいないので学校も行かなくなり、ヘアサロンで働きはじめる。

題名の「カルフォルニエ」Califorinieはヘアサロンの名前で、店長の女性はCaliforniaという看板を注文したが、できあがったのはaがeになっていた。そんな田舎っぽいゆるい感じの中を多感な少女は生きてゆく。最初はモロッコに行きたいとお金を貯めていたが、父親が仕事が見つかって行く時には行きたくない。

電動自転車を買ったことからそこで働く少年と仲良くなって誘われるが、ヘアサロンが忙しくて約束の場所に行けない。姉ともうまく行かず、焦燥感が高まる日々。そして映画はプツンと終わる。ドキュメンタリーかと思ったが、カタログを見ると劇映画という。少女が少しずつ大人の顔になってゆく変化が心に残る。3点。

韓国映画『オマージュ』は、韓国の女性監督のパイオニア、ホン・ジュウォンへの「オマージュ」という意味だが、全編に映画愛が溢れており、映画そのものへのオマージュでもあった。女性監督のジワンは作る映画が当たらず、3本目の『幽霊人間』の最終日にガラガラの劇場を女性プロデューサーと訪れていた。ある日、ホン監督が62年に作った遺作『女判事』のプリントが不完全な状態で見つかり、ジワンはその復元作業を頼まれる。

かつてホン監督たちが集まったカフェに行くと、オーナーは映画のスチールカメラマンで、『女判事』の編集を担当した女性の連絡先を聞く。その女性は足を悪くしていたが、上映した映画館の場所を教えてくれる。その映画館は潰れかけていたが、あるきっかけでそこから映画の断片を探し出す。『女判事』に出ていた俳優も見つかったが、介護施設にいて映画の記憶がない。

ジワンが訪ねる元映画人たちの佇まいや、彼らのいる古いカフェや自宅や映画館の雰囲気がいい。とりわけ編集の女性とホン監督が打ち解けてゆくシーンは涙が出そうになる。そして驚くべき場所から映画の断片が見つかった時は、本当に感動した。

ジワン自身も息子には馬鹿にされ、夫とはうまく行かず、自分は子宮筋腫になって苦労だらけ。彼女を演じるのは『パラサイト』で家政婦役だったイ・ジョンウンで、普通のおばさん風なのがいい。監督・脚本のシン・スウォンは1967年生まれの女性でこれが6本目の長編というが、映画愛に終わらない卓抜な構成と繊細な映像センスが光る。4.5点。

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