年末に読む瀬戸内寂聴『夏の終わり』
今年11月に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴の本は一度も読んだことがなかった。テレビや新聞によくあの僧侶姿で出るし、みんなが絶賛する人気者だったから、どこか胡散臭いと思っていた。先日、本屋をぶらついたら彼女の文庫本がずらりと並んでいたので、思わず有名な『夏の終わり』を買ってみた。
『夏の終わり』はこの題名の短編を含む5本の短編集。一番最後の『雉子』を除くと、主人公は知子で、妻子ある年上の売れない作家の慎吾と年下の涼太の間を揺れ動くさまを描く。するすると読めるが、正直なところこれが「女流文学賞受賞」で「瀬戸内寂聴の出発点」とされる作品だとは、ちょっと拍子が抜けた。
今の女性作家ならば、この程度の不倫の内容や自由な話法はいくらでもあるだろう。しかしこれが1962(昭和37)年から翌年にかけて雑誌に出てすぐに出版されたものと考えたら、やはり凄いのかもしれない。私が生まれた頃の話である。
男性作家なら、太宰治とか檀一雄とか自分の不倫を私小説のように暴露しながら書く作家はいくらでもいただろう。しかし女性となると林芙美子くらいしか思いつかないし、林芙美子は今読むともっと「文学的」だ。
最初にある『あふれるもの』の出だしがいい。洗面道具を抱えて銭湯に行く振りをして、若い恋人に会いに行く。「ある日突然、銭湯へ行く途上で、この道を反対にとり、邸町の細い路地を迷路のように走り抜けていけば、意外に速く、一駅離れた涼太の部屋にたどりつくのではないかと思った瞬間、もう知子の足は止み難い衝動に衝き動かされ、いきなり横道へ走り込んでしまった」
この素直で感覚的な表現が当時はウケたのではないか。そのうえに、8年つきあっている年上の慎吾は妻子がいて週の半分を知子と暮らす男。涼太は実は知子が結婚していた頃に関係が始まっていったん別れた恋人だった。そのような複雑な過去が知子の日常の中でポロリポロリと出てくる。
「八年の間に、いつのまにか知子はじぶんの過去のすべてを慎吾にあけ渡していた。その中には別れた夫のことも、その別れの原因になった涼太のことも含まれていた」「知子との恋愛に破れた後、南の島で結婚していた涼太が、その結婚も不首尾に終わって、半年前から上京しているらしいという噂は、知子に耳にも入っていた」
もちろん直接的な性描写はない。なにしろ昭和37年だから。しかしコトの後で「タオルをしぼり、涼太に背を向けて着物の裾をひろげ、手早く脚をふきあげた」「ほんとうに一風呂浴びたような上気した清潔な顔をしていた」という表現の生々しさは今読んでもすごい。後ろ向きに着物の裾を広げるあたりは昭和37年。
5作品とも似たような調子で、実は少し飽きてきた。もうこの人の小説を読むことはないかもしれない。
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