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2022年1月18日 (火)

岩波ホールの閉館に考える

7月末で岩波ホールが閉館になる、というニュースが先日流れた。新聞やテレビでも大きく扱われ、ネット上にもそれを惜しむ声が溢れている。これまでにもつぶれた映画館は数限りないが、これほどの話題になったことはあまりないのではないか。

報道やネットの書き込みを見ると、岩波ホールがなければ見られなかった映画がたくさんあった、映画文化の砦がなくなる、といった惜しむ調子が多い。確かにそれはそうだけれど、40年間映画を見続けてきた者としてはちょっと違和感もある。

まず、昔ほど岩波ホールはアート系映画の中心ではなくなっていた。かつて「ミニシアター」と呼ばれた「アート系映画館」の始まりは1981年のシネマスクエアとうきゅう(新宿)であり、82年のユーロスペース(渋谷)、83年の六本木シネヴィヴァンが続いた。さらに80年代後半にシネマライズ(渋谷)、アップリンク(渋谷)、日比谷シャンテ、ル・シネマ(渋谷)などが続々とできた。

それは「ミニシアターブーム」と呼ばれて地方にも広がっていった。つまり80年代から90年代にかけてミニシアターは全国的な流行だったが、岩波ホールの発足はその前の1974年で、先駆というよりはむしろドン・キホーテ的な試みに近かったのではないか。とにかく別格で、かつては東宝東和、フランス映画社、日本ヘラルド映画(とのその子会社のヘラルド・エース)などが映画を持ち込んでいた。

岩波ホールの歴代動員1位(44週)の『宗家の三姉妹』も2位(22週)の『山の郵便配達』も東宝東和の配給。しかし今や東宝東和はアメリカのメジャーのユニバーサルやパラマウントの配給が中心だし、フランス映画社はある時期から日比谷シャンテで公開するようになってその後倒産し、日本ヘラルド映画は角川書店に吸収された。最近は岩波ホールでやる映画はキネマ旬報などのベストテンにあまり入らなくなった気がする。

年末からの話題の映画では『偶然と想像』も『ボストン市庁舎』もル・シネマだし、『水俣曼荼羅』はイメージフォーラム。今の映画ファンには、ル・シネマやイメージフォーラムやユーロスペースの方が監督で映画を選ぶ「作家主義」に明らかに近いのではないか。

岩波はむしろ無名の監督だけど実は見てみるとかなりいい、そんな映画が増えた気がする。もちろん、最近よく配給しているムヴィオラ、ミモザフィルムズ、ザジフィルムズ、アルバトロス・フィルム、ハーク、サニーフィルムなどの小規模な配給会社にとっては、ほかと違っていつも一定の集客が保証されている映画館として貴重な存在だった。

それはまさに「エキプ・ド・シネマ」という3000人の会員制度を通じて、あそこで上映する映画は必ず見るという観客がついているからで、ほかの劇場にも会員制度はあるが、これほどの高い「忠誠心」はない。ポイントはコロナ禍で中高年を中心とした会員が動けなくなったということである。

映画興行のシンクタンク、ジェム・パートナーズの調査によれば、映画ファンでコロナ禍で劇場に通うのを止めた50代以上は6割近くだが、20代や30代は2割に過ぎない。つまり今回の閉館は高齢者の会員制度が機能しなくなったからに過ぎない。これについては後日また書く。

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