韓国映画みたいな『さがす』
片山慎三監督の『さがす』を劇場で見た。平日昼間なのに若者でにぎわっていたのに驚いた。前作の『岬の兄妹』を見たら、とんでもなく暗い映画を撮る監督だとわかるだろうに。今回もどうしようもない闇をさまよう人間たちを描いている。
中学生の楓(伊東蒼)はダメ親父の智(佐藤二朗)に悩まされている。父は日雇い仕事をしているが、万引きをしたかと思うとある時懸賞金のかかった男を追って失踪してしまう。楓は学校の先生と必死で探す。これから題名の「さがす」展開が始まるが、それがまさに奇想天外。
日雇い職場を何とか探し当てると、父の名前で働くのは全く別の若者だった。楓はその男、山内(清水尋也)を追い回して、離島にたどり着く。それを手伝うのは楓を好きになった同級生の男。
それから3カ月前に映画は戻り、離島の山内の行動を見せ始める。視点は山内に移り、父はしばらくどこかにいなくなる。ところが13カ月前に映画が戻ってからは難病の妻の介護をする父・智を追い始める。そしてしばらくすると偶然から智と山内が結びつき、恐ろしい犯罪へと向かう。
大阪の通天閣近くの西成地区の場末感がいい。娘は貧乏を全く気にせず、見ていてその動きはおかしいくらい。そして父の愚直さは真面目なのか不真面目なのかわからない。この中で山内は一番普通にわかりやすいサイコの殺人鬼だが、彼が智と組むのはヘンだし、途中で世話になるAVコレクターの老人(品川徹)など本当におかしい。
しかし後半は殺人の現場をどんどん見せて、しまいには不思議な父と娘の再会の場面に持ってゆく。いわばコテコテの何でもありだが、撮影はしっかりしているし、最後の卓球のシーンには惚れ惚れしてしまう。リアリズムの観点からはすべてがありえない感じでついていけないけれど、ダークなエンタメとして楽しもうと思えば、素敵な映画かもしれない。
正直に言うと個人的には娘がダメな父親を愛して何とかして探す最初から「ありえない」と思ってしまったが、最初からギャグだと思えば後半はむしろ楽しめる。私はこの遮二無二な詰め込み加減は韓国映画みたいだと思った。暴力とサスペンスに愛とユーモアをふりかけて引っ張ってゆく展開が今の若者にウケるのはよくわかる。
『岬の兄妹』は自主製作映画だが、今回はアスミック・エースの製作・配給。次はネットフリックスあたりに行きそうな予感。
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