シェア型書店に本棚を借りる
元電通勤務で映画評論家・映画監督の樋口尚文さんが、パートナーの水野久美さんと神田・神保町にシェア型書店「猫の本棚」を開いた。170人分の本棚が用意されていて、月に4000円払うとその本棚に自由に本を持ち込んで売ることができるという。最初にフェイスブックでそのことを知った時は、特にピンと来なかった。
それからしばらくして樋口さんからメッセンジャーで案内が来た時に「私には売りたい本がある」と思いついた。自分が作った映画祭のカタログである。1992年の「レンフィルム祭」に始まって、2007年までに企画した30本ほどの映画祭で私は分厚いカタログを編集・出版した。
美術展ではカタログを作るが、映画祭では薄っぺらいパンフがせいぜい。海外では映画祭の立派なカタログがあるのに、と常々思っていた私は、映画祭のたびに資料としても価値のあるカタログを作ることを思い立った。これらは、出版といっても映画祭の会場で売るだけで、ISBNもなく書店の流通には流れない。従って映画祭が終わると、捨てるしかない。
終わって数年たつと会社から廃棄を命じられた。私は捨てるに忍びなくて、国会図書館を始めとしてあちこちの図書館に寄贈し、さらに自宅に持ち帰った。大学で教え始めると、大学にも数冊ずつ持って行って図書館に1冊ずつ収め、関係のある卒論を書く学生にプレゼントした。それでも大学にも自宅にもまだある。
そこで今回、「猫の本棚」を借りて売ったらいいじゃないか、と思いついた。棚がなくなるといけないと思ってすぐに申し込み、初日の昨日、夕方6時の閉店間際に大学の本棚にあった10冊ほどを持ち込んだ。「ジャン・ルノワール、映画のすべて」「ハワード・ホークス映画祭」「ルキノ・ヴィスコンティ映画祭」「韓国映画祭1945-1996」「ポルトガル映画祭2000」「イタリア映画祭2001」「ドイツ映画祭2005」などなど。
一冊一冊自分で値付けをして、スリットを挟み込む。そこには「最初のイタリア映画祭です」などの売り文句も書く。本棚には「古賀太のカタログ本棚」と名付けたポップを作ると、だんだん楽しくなってきた。水野さんに「ヴィスコンティ映画祭、行きました!」と声をかけられると、つい当時の思い出を語り出す。
自分で並べたがまだ1/3も埋まらない。これはこの週末に自宅からも持ち込もうと思った。基本的に自分の保存用の1冊以外はすべて放出することにしようと思った。亡くなった時に捨てられるより、誰か読みたい人が買ってくれた方がいい。幻の「レンフィルム祭」カタログも置くつもり。
先日、岩波ホールについて書いたが、「猫の本棚」の場所はそのすぐ近く。一つの文化が終わり、新たな文化が生まれる。ぜひ足を運んでみてください。棚主はまだ募集中。
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