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2022年3月 1日 (火)

『ゴヤの名画と優しい泥棒』の痛快さ

最近映画館で見た英語の映画で一番おもしろかったのが、ロジャー・ミッチェル監督『ゴヤの名画と優しい泥棒』。1961年に実際にあったゴヤの名画の盗難事件をもとにしたものだが、何とも痛快でかつ見ていてじんと心に沁みた。

ケンプトン(ジム・ブロードベント)は英国北部のリーズに住む60歳の男だが、理想主義者で職場でもすぐに喧嘩して辞めさせられる。まずはタクシー運転手をしていて、客に話し過ぎると苦情が来た。彼の主張の一つは貧しい者にはBBC放送の受信料を無料化すべきだと言うもので、自分のテレビをBBCが見られないように細工して料金を払わないが、数カ月刑務所に入れられてしまう。

メイドとして働く真面目な妻(ヘレン・ミレン)はそういう夫が恥ずかしいが、夫はこっそり隠れて行動する。彼はテレビでロンドンのナショナルギャラリーが14万ドルでゴヤの名画「ウェリントン公爵」を購入したニュースを知って、そんなお金があれば多くの困窮者がBBCを無料で見ることができるのにと激怒する。

ある時、ケンプトンはロンドンに2日間だけ行かせてくれと妻に懇願して出かける。自分の亡くなった娘をテーマにした脚本をBBCに売り込んだり、国会議事堂の前でBBCの無料化を訴えたりするが、相手にされない。最後に「ウェリントン公爵」を盗み出して持ち帰る。そして作品を返すから、貧しい者にはBBCを無料にしろといった要求を続ける。

次男はその秘密を知って協力するが、長男の恋人は通報して報奨金を得ようとする。ケンプトンはそれは違うと絵を返しに行く。後半は裁判になるが、これが抜群におかしい。ケンプトンが発言するごとに、傍聴人やジャーナリストは大笑い。それは裁判官や陪審員までも巻き込んでゆく。終りのあたりでは涙も出た。

1961年の話だが、当時の英国の田舎やロンドンをニュース映像なども使ってうまく時代感を再現している。色調もレトロで、分割画面の使い方もあの時代らしい。実際にこの絵が登場する『007は殺しの番号』(1962)を使うあたりもなかなか。

それにしても、彼の運動が実を結んだわけではないだろうが、終わりのクレジットで2000年以降75歳以上はBBCが無料になったと出てきたのに驚いた。観客の中で「へー」と声を出した人がいた。最近、ドンキで地上波が見られないTVがバカ売れしてるらしいが、この映画はNHKの受信料問題にも大きな参考になるのではないか。

 

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