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2022年3月 3日 (木)

『愛なのに』を楽しむ

城定秀夫監督の『愛なのに』を劇場で見て、楽しんだ。これは今泉力哉と城定秀夫の2人の監督が、互いに相手の脚本を書き合って演出するプロジェクトの1本目。実はこの2人の監督には8年前、2人ともまだ有名でなかった頃に会った。

いや、知っている人は知っていたかもしれない。学生企画の映画祭「監督、映画は学べますか?」でこの2人の監督の作品を提案したのは、学生だった。それぞれ複数の学生がいいと言うので、私はOKを出した。この年の映画祭は監督が会場に来て観客とトークをすることが条件だったので、私は彼らと会った。

今泉監督は『夏風邪』(2013)など中編3本、城定監督は『悦子のエロいいはなし~あるいは愛でいっぱいの海』(2011)ともう1本の成人映画2本。どれも巧みな構成が光っていた。今泉監督はその後どんどんメジャーになったので『愛がなんだ』など見ているが、城定監督は評判のよかった『アルプススタンドのはしの方』も見ていない。

『愛なのに』は今泉監督が書いた脚本に城定監督が手を入れて演出した。R15指定が前提。最初、古本屋の30歳ほどの店主・多田(瀬戸康史)に16歳の高校生・岬(河合優美)が求婚する場面があって、まさかこの2人ができるのかと思ったが、違った。もう1つカップルがいて、多田の片思いの一花(さとうほなみ)と亮介(中島歩)で、2人は結婚式の準備中。

ところが亮介はその式を担当する女性と関係がある。夫の不倫を察した一花は、仕返しに自分を好きだった多田に連絡を取ったことから話がこんがらがる。終盤には岬の両親まで出てきて炸裂する。

だんだん多くの人が出てきてありえないほど複雑な人間関係になり、随所にユーモアを仕込んで笑い飛ばすのは今泉力哉流で、「セックス、ヘタですよね」という究極の台詞を真ん中に仕込んで、セックスのいいかげんさというか、肉体を使って何でもありのアナーキーな世界を見せてゆくのは城定秀夫流か。そして大事なシーンは引いたカメラでじっくりと見せる。

終始、笑いながら最後まで見た。この2人が逆パターンで組む『猫が逃げた』もR15というから、見てみたい。『花束みたいな恋をした』とか『ちょっと思い出しただけ』のようなノスタルジックな恋物語よりも、私には好みだ。そういえば、「朝日」にこの2人の対談があったので、読んでみよう。

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