『オートクチュール』のフランス
3月25日公開のフランス映画『オートクチュール』をオンライン試写で見た。最近はスクリーン試写の回数が減っているので試写会には時間が合わなかった。ナタリー・バイがオートクチュールのアトリエのトップで、若い女性を育てるという設定に興味があった。
ファッション・デザイナーの世界は時々映画になるしドキュメンタリーもあるが、実際に手を動かして服を作っている人達(クチュリエ)の様子はめったに見ることができない。その意味で、クリスチャン・ディオールのクチュリエたちを描いたこの映画は興味深かった。
アトリエは全体で20人ほどで、朝8時に始まる。数分遅れただけで怒られる。忙しい時は夜中や土日も仕事をする。フランス人は仕事をしない、バカンスが大好きというのは一般的なイメージで、私は猛烈に仕事をするフランス人に何人も会った。ナタリー・バイはアトリエのトップ、エステルを演じているが、まさに仕事人間そのもの。
物語は、彼女が20歳前後の女性のジャド(リナ・クードリ)にスリにあうところから始まる。ジャドはパリ郊外に住むアラブ系移民家族の出身。エステルの鞄を盗むが、その中にディオールの身分証明書を見つけて貴重品を除いて返しに行く。エステルは怒るが、なんとなく食事を共にしてジャドの繊細な指を見てアトリエに来ないかと誘う。
映画はジャドが周囲と何度もぶつかりながらも、少しずつ技術を習得していく場面を見せる。それはある種のシンデレラ物語のようで見ていて快かったが、気になったのは格差社会の表現だった。
最初にエステルは怒りにまかせてジャドに「貧乏移民!」と言ってしまい、ジャドは激怒する。しまったと思ったエステルは「政治的に正しくないことを言って何が悪いの」と自分に問いかける。移民差別はフランス社会では表向きは絶対に言ってはいけないことだ。
ところがアトリエの中には彼女を明らかに差別する女性もいるし、私も同じ地域(サン・ドニ)の出身と話す女性もいる。ジャドと恋仲になるアベルはアラブ系だが母は弁護士でパリの中心に住んでるのに、郊外住まいと思われると語る。彼の本名は「アブデル」だが、アラブ系と思われないように「アベル」にしていた。
もう一つのポイントは、エステルが実は娘とは長い間連絡を絶ち、孤独な人生を送っていること。その結果として甘いものを食べ過ぎて、糖尿病を患っている。毎朝、花に話しかけるのが日課だ。後半は彼女の孤独をジャドを始めとした移民たちの連帯が包み込んでいく。
ミュージカル映画ではない方のフランス映画『レ・ミゼラブル』(ラジ・リ監督、2019年)は、パリ郊外の移民社会そのものを描いていた。この映画はそれを背景にしてオートクチュールの世界を描くという難しい試みに成功している。監督のシルヴィー・オハヨンが、チュニジア系ユダヤ人移民出身の女性というのに納得。
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