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2022年3月15日 (火)

今度の『ザ・バットマン』は「暗くて長い」

マット・リーヴス監督の『THE BATMANーザ・バットマン』を劇場で見た。一言で言うと、「暗くて長い」。「暗い」は文字通りで最初から最後までほとんど夜で明るい昼間の場面がない。そのうえに雨ばかりでわざと画面の大半をぼかす場面が多いので、何が写っているのかわかりにくい。

内容も市長や検事や金持ちを標的にした連続殺人事件をバットマン(ロバート・パティンソン)が追うのだが、彼がニコリともせず陰気なうえにその動機が途中までは復讐なので暗い。真ん中あたりで猫好きの女性、セリーナ(ゾーイ・クラヴィッツ)と出会うが、彼女も怪しいナイトクラブで働いていて暗い。

そのうえ、2時間56分という長さ。いつ終わるとも知れない夜のような気分だった。後半にバットマンがゴッサムシティの大混乱を見て復讐よりも正義を目指すヒーローとなってゆく感じだが、それまでがとにかく長かった。

このわからず長い感じは何かに似ていると思ったが、1940年代から50年代のアメリカで流行ったフィルムノワールだ。バットマンは犯行現場に乗り込んで警察に嫌がられながら、彼宛の謎のメッセージを受け取る。この不必要なくらいの過剰ななぞかけは『マルタの鷹』(1941)とか『三つ数えろ』(46)みたいだ。こちらはバットマンではなく「私立探偵」が中心だが。

あるいは汚職が広がり、貧富の差が激しい社会は、現代を想定しているのかもしれない。現代とは思えない古めかしい世界にスマホがあり、大富豪の息子であるバットマンは何をすべきか悩む。時には自分が腐敗の一部だと悩む。

そのうえ、バットマンは絶対的に強いわけではない。カーチェイスでも辛うじて勝つ感じで頼りない。たぶんそんなあたりにフィルムノワール的な古典性と格差社会の現代の融合を考えた今回のバットマンがあるのかもしれない。

ところでバットマンと激しいカーチェイスを見せる怪人ペンギンは、そのメイクでとてもコリン・ファレルだとは気づかなかった。犯人リドラー役のポール・ダノも後半でわかったくらい。とにかく「暗い」から。たぶん続編があるが、私にはこの一作で十分。

 

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