小蠅のジェノサイド
7、8年前に京都国立近代美術館のエレベーターの床にヘンな小虫がいた。思わず足で踏もうとしたら中にいた中年女性に「殺さんでええ」と言われて、持っていたチラシで開いたエレベーターの外に逃がしたことを妙に覚えている。京都はやはり寺社が多いから「殺生」を嫌うのかと思った。
それ以前から、人間に害を与えなければ虫も殺さないのが原則だ。ところが先日、大量に小蠅を殺してしまった。去年の6月頃から生ごみを減らすためにコンポストを始めた。同時に再利用可能な紙ごみもできるだけリサイクルに出したら、生ごみは1/10くらいになった。
コンポストは雑誌『アエラ』に紹介されていた福岡のLFCという会社のシステムを使った。そこから袋と基材を買い、3カ月毎日生ゴミを袋に入れていくと、いつの間にか堆肥ができあがる。その堆肥と土を混ぜると、花でもハーブでもよく育つ。
最初はバジルやローズマリーの苗を150円くらいで買ってきて育てた。どんどん大きくなって千円分以上になった。ローズマリーは少し残したらまた大きくなって今もある。パクチーはスーパーで根のついたものを買ってきて食べ残しを植えてみたら、どんどん大きくなって今も時々食べている。
1月頃、たまには「花」でも植えようとパンジーの苗を黄色と紫の2種を買った。これはどんどん咲いて見た目にも気持ちがよかった。ところがある時、その周りを小蠅が飛び始めた。調べると堆肥はショウジョウバエやキノコバエを呼び寄せるらしい。ハーブの匂いは嫌うが、花は好物らしい。
ただ、これらの小蠅は菌を運ぶわけではなく、人間に実害はないというので、最初は放っておいた。するとどんどん増えて、天気のいい日には朝からベランダを飛び回る。これは両隣から苦情が来ると困ると思い、ネットにあった退治法を試みた。ペットボトルの蓋に日本酒を入れて、洗剤を一滴たらして置く。
それをプランターの隣に置いたら、毎日数匹ずつ沈むようになった。これで安心と思ったが、小蠅の繁殖の勢いはそれを上回ってきた。3月になってパンジーが枯れ始めた。その枯れ方が花や葉に茶色の点々がついている感じで妙だ。何かの菌がうつったのかと思った。小蠅はどんどん増える。ある時虫眼鏡で見たら、その点々が動き出していた。
つまり花も葉も茎もあらゆるところに小蠅が卵を産み、それがどんどん大きくなっているようだった。意を決してパンジーの根を引っ張ったら土の上に何百という小蠅がうごめいていた。私は慌てて近所の薬局に行ったが、どれを買っていいかわからない。昔から知っている「キンチョール」が安くて大きかったので選んだ。
完全に花を抜いて、花の上にシュー。そして花を抜いた後の無数に群がる小蠅にシュー、シュー、シュー。たぶん何千という小蠅を殺したのではないか。これでは小蠅史上に残るジェノサイドだと思わず思ったのは、最近のニュースの影響か。エコのためにコンポストを始めたが、とんでもない結果になった。
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