今井正がわからない:続き
前に1950年キネマ旬報ベストテン1位の『また逢う日まで』がわからないと書いたが、その前年に有名な『青い山脈』を作っていた。これはその年のベストテン2位で1位は小津の『晩春』。まさに原節子の黄金時代だが、私には『青い山脈』もどこがいいのかよくわからなかった。
その年だと3位の黒澤明『野良犬』、6位の木下恵介『お嬢さん乾杯』(また原節子)、あるいは10位の清水宏『小原庄助さん』の方が何倍もおもしろい。『青い山脈』は正・続あるが、とにかく登場人物が図式的なことこのうえない。
原節子演じる島崎先生は「民主主義の女神」で、田舎町の古い日本の伝統を打ち破り、自由な「恋愛」を女学生に勧める。白の上下で生徒とバスケットボールをする爽やかさ。いつも白いシャツと胸に黒いリボン。彼女は言う。「恋愛は昔は悪いことでしたが、今はいいことです」「家のため、国家のため、というのは日本人の間違いです」「悪い伝統はどしどしなくしたほうがいい」
彼女に味方するのは沼田医師(龍崎一郎)、彼を好きな芸者の梅太郎(小暮美千代)、高校生の六助(池辺良)や彼と付き合い出す教え子の寺沢新子(杉葉子)とその友人で梅太郎の妹・和子。彼らは正々堂々と自分の意見を言い、恋愛をする。私には新人の杉葉子がどう見ても魅力的に見えない。
彼女に対抗する「悪人」たちは、他人の行動を見張り、悪い噂を流す。偽の手紙を書く。男は飲み屋に集まって裏工作。地元の新聞を動かして有利なニュースを流す。女生徒は「学校の名誉」を掲げて新しい勢力を邪魔する。暴力を使って敵を傷つける。
そもそも恋愛は戦前もあっただろうし、保守的なのは田舎だけではない。都会から民主主義を持ち込むという発想についていけない。中国の留学生は、まるで同時期の中国映画のようなプロパガンダ性を感じると言っていた。
この映画の直後に封切られた『晩春』では原節子は既に伝統を守る女性像への道を踏み出している。戦後『安城家の舞踏会』や『わが青春に悔いなし』で打ち立てた原節子=「民主主義の女神」の最後の映画かもしれない。
それにしても西條八十作詞、服部良一作曲のあの能天気に明るい主題歌は流行し、吉永小百合版など何度も映画化された時に毎回使われ、テレビでも使われた。私は今でもすぐに口ずさむことができるが、さすがに今の大学生は知らないだろうな。
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