『PLAN 75』の骨太な魅力
6月17日公開の早川千絵監督『PLAN 75』を試写で見た。現在開催中のカンヌで上映されたばかりだが、なかなかの力作である。75歳以上の高齢者に死ぬ権利を与える制度「プラン75」が施行されている近未来の日本が舞台だが、社会派のテーマにまっすぐ正面から挑んだ骨太な映画だ。
78歳のミチ(倍賞千恵子)はホテルの清掃係で同世代の仲間2人と働いている。一緒にカラオケに行って仲が良いが、ある時3人とも解雇されてしまった。ミチは仕事を探すが見つからず、夜間の警備員の仕事をやってみるが、高齢の彼女には無理だった。
住んでいる団地も取り壊しの期日が迫るが、無職の78歳に家を貸す者はいない。身寄りもなく万策尽きて「プラン75」に申し込むと、親切な電話がかかってくる。若い瑤子(河合優美)は毎晩15分間話を聞いてくれ、規則に反して自分と会ってくれた。2人はボーリングに行って盛り上がる。
ヒロム(磯村勇斗)は「プラン75」の窓口で働く。ある時そこに偶然20年も会っていない叔父の岡部(たかお鷹)がやってくる。近親者で担当は外れたが、彼の家に行き、2人で食事をする。一方、彼は「プラン75」の関係業者を当たるうちに、怪しい取引に気づく。
フィリピン人のマリアは日本で介護で働いていたが、フィリピンにいる子供が病気のために大金が必要になり、フィリピン人コミュニティの紹介で「プラン75」の仕事を始める。それは死後の遺品処理だった。
ミチと岡部の2人が「プラン75」に申し込み、そこで働く瑤子、ヒロム、マリアが絡んでくる。それぞれの人生が揺らぎ始める。倍賞千恵子が抜群にいい。彼女が出てくるだけで、正直に丁寧に生きてきた高齢者のリアルさをひしひしと感じる。ほかの俳優もそれぞれが抱える切実さがきちんと伝わる。
映画を見ていると、あり得る話だと思う。「プラン75」に申し込むのは自由で、いつでもやめられるというのだから。もしこんな制度ができたら、今の日本なら申し込む人がかなりいるのではないか。報奨金が10万円というのも、ありそうな話。監督のオリジナル脚本で、同じテーマでオムニバス映画『十年』で短編を作り、それを長編にしたという。
フランスとの合作で編集、音楽、サウンドデザインなどにフランス人が加わっているせいか、すっきりした見やすい映像と展開で無駄がない。その分、倍賞千恵子を始めとする登場人物がまっすぐ迫ってくる。初長編とは思えない堂々とした骨太の魅力を感じさせる。カンヌで第一回長編に与えられる「カメラドール」が取れるかもしれない。
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