『さよなら、ベルリン』を見る
ドイツのドミニク・グラフ監督の『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』を劇場で見た。主人公とその恋人を演じるトム・シリングとザスキア・ローゼンタールが、傑作『ある画家の数奇な運命』(2018)に出ている主人公と叔母だと知ったから。
『ある画家の数奇な運命』は189分だが、こちらは178分というのも気になった。そのうえ、舞台は1931年のベルリンでヒトラーが首相になる前年というのも興味が沸く。1920年頃から『カリガリ博士』に代表される表現主義の映画が現れて、クラカウワーが書くようにまさにナチスを受け入れる不安な社会が形成されている時代の諸相を見たかった。
結論から言うと、『ある画家の数奇な運命』のような大河ドラマではなく、むしろ会社をクビになった作家志望の青年ファビアン(トム・シリング)の不安に満ちた自由な放浪を描いた青春の一コマという感じ。手持ちカメラのせわしなく動く映像に、当時のドキュメント映像や8㎜の荒れた画像も加わる。
出だしはかっこいい。ファビアンが現代のベルリンの地下鉄の駅の階段を昇ると、そこに中年男が近づいてきて何かを囁き、いきなり1931年になる。彼は狭いアパートに住んでいるが、パーティなどに繰り出して人生を楽しむ。そこで女優志望のコルネリア(ザスキア・ローゼンタール)と出会い、恋に落ちる。
コルネリアは法学士で映画会社で契約書を作成しているが、有名な監督に取り入ってスターへの道を歩き始める。お金のないファビアンはそれを遠くから見ているだけ。コルネリアは監督と関係しながらも、ファビアンを忘れない。
あるいは金持ちの友人、ラブーデはかつてはファビアンやコルネリアと毎晩遊んでいたが、いつの間にかファビアンたちと仲たがいする。ある時人生に迷ったのか自らの命に終止符を打つ。父親は嘆き悲しみ、ファビアンは不思議な行動に出る。
映画のあちこちにナチスの到来を告げるような細部が見える。警察はあちこちにいてやたらに尋問し、人々の行動を監視し始める。そして「危険」な本を集めて火を放つ者が出る。しかしファビアンはあえて静かな抵抗の道を選ぶ。
謎だらけの社会に生きる若者たちを巧みに描いているが、もう少し短かいともっとよかったかもしれない。
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