『映画の声を聞かせて』を読む:その(2)
魚住桜子さんの『映画の声を聞かせて フランス・ヨーロッパ映画人インタビュー』について前回は「まえがき」で終わったので、少しは中身に触れたい。この種のインタビューでおもしろいのは、監督や俳優が一般には知られていないことをポロリと普通に話す瞬間だ。
最初にあるアンナ・カリーナのインタビューで驚いたのは、彼女の名前をつけたのはココ・シャネルだったこと。モデルをしていて「エル」誌の表紙になり、編集部を訪ねるとココ・シャネルがいた。「「ハンヌ・カレン・ブレーク・べイヤーです」と答えました。すると彼女は「それはよくないわ。今日からあなたは、アンナ・カリーナと名乗りなさい」」
カール・ドライヤーの遺作『ゲアトルード』の衣装を担当しているのは彼女の母親だが、何とそれは彼女が引き合わせたというのにもびっくり。カリーナはデンマークの新聞のパリ特派員をしていたドライヤーの息子と知り合い、それからドライヤー本人とも出会った。「その縁で私はドライヤー監督に、母のブティックを紹介したのです」
確か『ゲアトルード』のシネマテーク・フランセーズのお披露目上映の写真で、観客席にドライヤーとアンナ・カリーナが近くにいたものがあったと思う。もちろんアンナ・カリーナ演じる女性がゴダールの『男と女のいる舗道』の中でドライヤーの『裁かるるジャンヌ』を見て泣くシーンは有名だが。
カリーナがゴダールと恋に落ちる瞬間もすごい。『小さな兵隊』の撮影前にゴダールの友人の招待でレストランに行き、彼の向かいに座った。すると「愛している。深夜〇時にジュネーブのカフェ・ド・ラ・ペで」というメモを渡された。「その時に私は、まるで磁石に引き寄せられるように彼に惹かれている自分に気がついたのです」
翌朝目を覚ますと彼はいない。「午前11時頃になって、彼は大きなカバンを抱えて戻ってきたのです。そのカバンにはバラと、真っ白なドレスが入っていました」。さすがゴダールの「即興演出」はすごい。「結婚してからも彼は、三ヵ月くらい家を空けることはしょっちゅうでした。煙草を買いに行くと言ってふらっと消えてしまう」
「彼ほどエネルギッシュな映画人を、私はこれまで見たことがありません。ジャン=リュックは逆立ちで歩くだけでなく、そのまま階段を降りることだってできるんですから!足も速いし、スキーも水泳も大した玄人だし」。ちょこまかとせわしなく動き、意味不明のことを話すゴダールの源は「身体能力」だったとは。
アンナ・カリーナのインタビューだけで、知らなかったことがたくさん出てくる。トリュフォーと親しかった人々やロメール本人及び友人のインタビューなど、いつかまた書きたい。
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