大倉集古館と泉谷博古館を間違う
スペイン人の友人Aさんに誘われて、ホテルオークラ近くにあるスペイン大使館に行った。大使館内のホールで「SOMOS 多様性とLGBTQ+カルチュラル・ナラティブ」という展覧会が6日まで開かれていたから。これはスペインのLGBTQの歴史をたどったもので、日本のパートもあった。
基本的にはパネルの展示で、性的マイノリティのシンボルだった人物たちの写真や代表的な雑誌などの写真をコラージュしている。1975年までのフランコ政権時代はLGBTQへの弾圧が激しく、投獄された者も多かった。しかしフラメンコの世界では、隠れたゲイやレズが多数棲息していたという。
フランコ末期の1970年頃からは雑誌などで現代までのスペインのだんだんとゲイやレズが出始め、「Party」という専門の雑誌が出る。2005年には国レベルで同性婚が認められた。そんな闘いの歴史を楽しく見せる展示だった。もちろん映画のパートもあって、ペドロ・アルモドバル監督は大きくフューチャーされていた。
その時思ったのが、スペイン映画ではゲイがよく出てくるのにイタリア映画にはほとんどないということ。同じラテンのカトリックの国なのに、なぜかわからない。イタリアで同性愛の監督と言えばルキノ・ヴィスコンティやピエロ・パオロ・パゾリーニが思いつくが、彼らの映画でゲイを公然と主張しているものはない。
ヴィスコンティの『ベニスに死す』(1971)は純粋な少年愛の世界で、いわゆるゲイやレズとは違う気がする。パゾリーニの『愛の集会』(1964)はパゾリーニ自身がマイクを持ってイタリア各地で性に関する意識調査をするドキュメンタリー。結婚と関係のない恋愛や避妊については特に都会では大らかだが、同性愛については全員が激しく否定するのが印象的だ。
そんなことを考えながら、スペイン大使館の近くにある大倉集古館に向かった。芭蕉布の平良敏子さんの展覧会が始まったばかりだから。ところが入ったのはなぜか泉屋博古館だった。こちらも近くにあるが、スペイン大使館からは逆方向。実はチケットを買ってからようやく間違いに気がついた。
どちらも富豪の個人コレクションだし、「集古館」と「博古館」で似ていたのかもしれない。泉屋博古館は住友家のコレクションを集めたもので本館は京都だが、東京の分館ではリニューアルオープン記念展として「光陰礼賛 モネから始まる住友洋画コレクション」が開かれていた。住友吉右衛門のコレクションは中国の青銅器と思っていたが、西洋美術もあったとは。
モネやルノワールはアーティゾン美術館などに比べたら小品だが、ジャン=ポール・ローランスという19世紀末のアカデミー派の芝居がかった歴史画が2点もあったのに驚いた。いわゆる印象派と違って歴史の名場面を克明に描いたもので、20世紀初頭まではこちらの方が主流だったのかもしれない。
住友吉右衛門は洋画家の鹿子木孟郎にコレクション購入のアドバイスをもらっていたので、鹿子木が師と仰いだローランスの絵画を買ったようだ。ローランスの影響を受けた鹿子木の絵画もあって興味深かった。次回こそは大倉集古館に行く。
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