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2022年6月28日 (火)

『東京2020オリンピック SIDE:B』に考える

東京オリンピックの公式映画を先日の『SIDE:A』に続き、『SIDE:B』を見た。『A』もそうだったが、興奮しながら見た。もともと予告編を見た時に、両方見たいと思ったから不思議なものだ。小さい頃にあった東京オリンピックは記憶になく、今度は還暦で何となく自分のこれまでの人生を考えながら見たのかもしれない。

大学生の時から映画好きになり、それが昂じて今や大学で教えている。その映画というものが私が大嫌いなオリンピックをどう捉えるのか、それも東京で開かれたのだからどうしても見ておかないと気が済まない。

今回『B』を見て思ったのは、いい顔とよくない顔があるなということ。言い換えると、本当にスポーツやオリンピックのことを考えているか、自分のことを考えているかというのが、表情や動作や言葉に現れた。

悪い顔に見えたのは、開閉会式の演出を担当した電通出身の佐々木氏。あの薄い白い髭がもみあげにも顎にも生えた顔で「私は広告という仕事にプライドを持っています」と言う。総合演出の野村萬斎さんが「日本の伝統を守り伝えるという意識が電通の方々にもいわゆるクリエーターにも感じられない」という意味のことを言って辞任した直後の映像なだけに残る。佐々木氏も結局は辞めたが。

次に組織委員長を途中で辞めた森元首相。これは自民党の古い体質を濃縮したような感じで、国のためにオレはやっている感じが充満してる。記者の質問には「失礼だ」と言い放ち、辞めた後にも「辞めたのがよかったのか、あのまま辞めずにやった方がよかったのかと考えます」ととんでもない発言をする。彼は辞めた後も委員会に出入りしていたのが映像でわかる。

森氏と再会の際に「抱擁」するIOCのトーマス・バッハ会長は能天気な「五輪貴族」。オリンピック反対運動を見てもニコニコで、広島で初めて神妙な顔になった。何十年も世界中を旅行して接待攻めを経験してきた彼のような人間には、もはやコロナでさえもすべてが楽しい人生なのだろう。それにしても一度も意味のあることを言わない彼の映像は多過ぎた。

菅元首相は全く感情をあらわさず、スパイのようで気持ち悪かった。彼よりも何度も出たのは元大蔵次官の武藤事務総長で、たぶんこの映画は森、バッハ、武藤の3人が一番出ている。この人は典型的な小役人で、ひたすら実務をこなしているだけに見えた。

意外に得したのが小池都知事で、数少ない発言シーンで英語ができることがわかったし、明るく見えた。森氏の後を継いだ橋本聖子氏は、やはりオリンピックへの愛情が森氏とは比較にならない。彼女の落ち着いた態度は救いだった。

そのほか選手村の食事責任者やグラウンド整理の責任者は出過ぎ。彼らの自己満足ぶりは何だろうか。B面なのだから、もっとボランティアの人々の混乱などを見たかった。それにしてもつなぎに無邪気に遊ぶ子供や花などの自然の映像が多過ぎる。これは河瀨直美監督のタッチ。

もっと時系列を整理してわかりやすくできたのにと思う。それをしない、できないのが河瀨監督だろう。それから権力者を写し過ぎる。権力との距離が取れないのもこの監督らしい。それにしても、いろいろ考えて興奮した2時間4分だった。

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