韓国映画『三姉妹』に思う
ここに何度か書いたように私には4人姉がいる。つまりは四姉妹なので、『三姉妹』という映画が気になって劇場で見た。四姉妹と言えば谷崎潤一郎の『細雪』のように優美な世界を思い浮かべるが、現実はそんなもんじゃないと常々思っていた。この韓国映画はまさに姉妹たちのダークな世界を描いていた。
長女ヒスクは間口の狭い花屋を経営しているが客は少なく、絶えず列車の音がする自宅には別れた夫が金をせびりに来るし、一人娘はロック狂いで母の言うことは聞かない。そのうえガンが見つかるが治療するお金もなく、誰にもそれを伝えられない。
三女ミオクは茶髪でジャンク・フードを食べて昼間から酒を飲んでいる脚本家だが、なぜか彼女に惚れた真面目な中年男とその連れ子のガリ勉中学生と暮らしている。次女のミヨン(ムン・ソリ)に用事もないのに電話をしたり会いに行ったり、いきなり夜中に劇団仲間の飲み会に現れたりと、行動に脈絡がない。
唯一ミヨンだけは夫は教授で裕福な家庭を持ち、教会の聖歌隊の指揮をしている。しかし厳しすぎるために2人の子供に嫌われ、夫は聖歌隊の若い女性と浮気をしてしまう。彼女が夫を追い詰めると、夫は家を出て教えている大学に住み始める。
実は前半、この3人が交互に出てくるのを見ていて、ちょっとやり過ぎかなあと思っていた。韓国映画特有の「コテコテ」感が出ていて、グロテスクなほど。ところが後半、このソウルに住む3人が父の誕生日のために海岸沿いの故郷に車で一緒に行くあたりから俄然おもしろくなる。
彼女たちの幼い頃の映像が白黒で挿入され、そこには一番下の長男までいたことが明らかになる。四姉妹の下の長男である私はここで身を乗り出した。その長男は今はどうしているかと。白黒の映像はその家庭には大きな問題があったことを見せ始める。そして長男は食事の途中で忽然と現れ、とんでもないことをしでかす。
その終盤の展開に唖然とした。家父長制の強いアジアならではの父の横暴というのは私の家でもあったが、もちろんこの映画ほどではない。三姉妹のあの圧倒的な嫌な感じも不幸な境遇も私の姉妹にはないが、ちょっとした細部に似たものはあった。そして3人が揃って海岸を歩くと実は仲がいい感じも、私には懐かしいものだった。
監督は女性かと思ったら違った。長編3本目のイン・スンウォンで、長女を演じたキム・ソニョンの夫だという。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 少しだけ東京国際:その(5)(2024.11.06)
- 少しだけ東京国際:その(4)(2024.11.05)
- 少しだけ東京国際:その(3)(2024.11.04)
- 少しだけ東京国際:その(2)(2024.11.03)
- 少しだけ東京国際:その(1)(2024.10.30)
コメント