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2022年6月16日 (木)

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を楽しむ

米原万里さんのノンフィクション『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を読んだ。彼女はロシア語の会議通訳で、会ったことはないがフランス語やイタリア語の同時通訳の知り合いから抜群におもしろい女性として噂は聞いたことがあった。エッセイストとしても有名だったが、2006年に亡くなっていた。

今回急に読もうと思ったのは、佐藤優氏が「朝日」で米原さんのことを書いてこの本に触れていた記事を読んだから。佐藤氏は外務省でロシア語専門官だったため通訳の米原さんと面識があったが、彼が東京地検特捜部に逮捕された時にすぐに励ましの電話をくれたという。そして拘留後は自宅に呼んで作家になることを勧めた。

『噓つきアーニャの真っ赤な真実』は、3つの中編からなる小説だ。小学生の「マリ」は日本共産党幹部の娘で、父が1959年に国際共産主義の雑誌『平和と社会主義の諸問題』の日本代表として赴任すると、64年までの5年間をチェコのプラハの「ソヴィエト学校」に通った。

そこで出会ったのがギリシャ人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミンカの3人で、それぞれ『リッツァの夢見た青空』『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』『白い都のヤスミンカ』と名付けられた小説となっている。小説と書いたが、もちろんマリ=米原万里の実体験を描いたノンフィクションだろう。

共産圏には旧ソ連が作った学校があり、各地で外交官の子息などをロシア語で教育していたようで、マリも含めて4人ともそれぞれの国である種の特権階級だたった。しかしながら日本も含めて各国のソ連との関係は微妙で、現にマリは日本共産党がソ連共産党を捨てて中国共産党を支持したために、日本に戻らざるをえなくなった。

4人それぞれが自国の複雑な事情を抱えながらも小学生として楽しく過ごす。日本に帰国したマリはみんなと文通を続けるが、次第に疎遠になる。ある時から手紙が転居先不明で戻ってくる。ましてや1989年のソ連崩壊あたりから、ギリシャもルーマニアもユーゴスラビアも激動を迎える。

3つの小説のクライマックスは、いずれもロシア語通訳となったマリが1990年あたりから3人を訪ねる場面にある。かつて住んでいた場所に行ってみると移転先がわかったり、親戚から電話番号をもらったりとあらゆる手段を尽くして会うところまでこぎ着ける。そしてお互いがそれまでの人生を語る。もはや涙、涙。

「東欧」と一括りに言うが、国ごとに事情は違い、特権階級であったがゆえに波乱万丈の人生を送っている。世界各地の共産主義の歴史を語る貴重なドキュメントというべきか。マリを筆頭として、どの少女も普通にはありえない強烈な生き方をしている。米原さんが生きていたら、今のウクライナ情勢をどのように解説してくれるだろうか。

 

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