『戦争と女の顔』に考える
28歳のカンテミール・バラーゴフ監督の『戦争と女の顔』を劇場で見た。ノーベル賞作家スベトラーナ・アレクシエーヴィッチの『戦争は女の顔をしてない』が原作という。この本は前から気になっていたので、映画から先に見ようと思った。
見やすい映画ではない。精神疾患を抱えるのっぽの娘、イーヤは傷痍軍人の病院で働いているが、発作の最中に息子を殺してしまった。そこに戦友のマーシャがやったてくる。2人の会話から彼女たちが狙撃手であったことや、死んだ子供はマーシャの息子でその父親は敵に殺されたことなどが明らかになる。
それにしても2人の結びつきは強い。街の若者が2人に声をかけても、イーヤはほとんど無視して、マーシャに夢中の男をバカにする。マーシャは戦争の傷で子供を産めない体になっていた。イーヤはマーシャの息子を殺した後ろめたさもあって、彼女のために院長と関係を結んで子供を授かろうとする。
半身不随になって殺してくれと頼む元兵士がいたり、路面電車に飛び込む人が続出したり。市内列車は超満員で、アパートの部屋は狭く、台所は共同。対照的なのがマーシャを好きになった男の境遇で、家に案内すると御殿のような建物が現れて、いかにも金持ちの両親は兵隊上がりのマーシャを軽蔑する。
1945年、独ソ戦争に勝ったばかりのロシアの大都市レニングラードで、地獄のような日常が繰り広げられる。ほとんどが夜ばかりの映画だ。室内は赤や緑を多用して女2人を魅力的に見せる。日本では女性は戦争の前線には行っていないが、女性戦士の過酷さは想像を絶することが彼女たちの戦後の日常から感じられる。
マーシャが緑のドレスを買って嬉しさのあまり室内を踊っている姿がいつまでも脳裏に残る。戦後の兵士たちの精神的なトラウマをあえて美しい映像にまとめた監督の手腕が光る。
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