イタリア映画のホラーからジャッロへ:その(1)
とにかく暑い。道を歩いていると太陽が迫ってくる感じに、6年前にパリに半年いた時にちょうど今頃、6月末から7月初めに行ったイタリアのボローニャとローマのことを思い出した。そんな時に、猛暑のローマで撮られたホラー映画『炎のいけにえ』(1974)をDVDで見た。
ホラー映画と書いたが、「ジャッロ」映画というべきかもしれない。「ジャッロ」とはイタリア語で黄色の意味だが、フランス語の「ノワール」に似て探偵ものやサスペンスものを指す。さらに転じて怪しげなエログロ映画の意味もあるようだ。
イタリア映画は1960年頃から何でもありになってくる。マカロニ・ウェスタンが生まれて世界的に流行し、マリオ・ボーヴァを始めとするホラー映画が次々と作られる。さらにヤコペッティのような「モンド映画」と呼ばれる似非ドキュメンタリー映画も出てくる。結果としてエログロ要素が増してきて、パゾリーニやベルトルッチのような作家監督にさえもその要素が見られる。
そんな中でホラーから派生した「ジャッロ」は、サスペンスにエログロ要素を交えつつ作られたもの。その代表作の一つがアルマンド・クリスピーノ監督の『炎のいけにえ』(1974年)。冒頭に太陽の黒点の映像が何度も出ると女のあえぐ声が聞こえてくる。そしていきなり、自殺のシーンが続く。
女は剃刀で手を切って血がほとばしり、背広を着た紳士はビニール袋をかぶって川に飛び込み、車にガソリンを撒いた男は車内で火を放ち、子供2人を殺した男は自らに銃を向ける。これはすべてローマが暑いからというのが説明。何度も輝く太陽が写る。
主人公のシモーナは外科医で検死担当。自殺の死体が溜まった置き場では、次々と解剖が進む。実際の人間が演じる傷ついた裸の死体が怖い。シモーナは妄想を見る。遺体が起き上がって自分を襲ったり、男女の遺体同士が性交をしたり。彼女は自殺と偽装自殺の違いについて研究中とか。
シモーナの周りでも自殺者が出る。プレイボーイの父の若い愛人ベティはローマ郊外の海岸で死に、住んでいるアパートの犬を連れた守衛も死ぬ。さらには父も飛び降り自殺。シモーナはいつもきちんとした格好で白いジャケットやシャツを着ているが、ブラジャーはなしで時々胸がのぞく。カーレーサーでカメラマンの恋人のエドガルドに会うといきなり胸をはだける。
病院の助手も牧師も隙あらばシモーナを狙っている。連続自殺は実は恋人の仕業でというオチだが、まとまりはよくない。暑いがゆえにみんなに妄想が渦巻き、残酷でエロチックなシーンが展開する。シモーナを演じるミムジー・ファーマーが、真面目な固い女のようでそうでもないところがいい。
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