石田民三を見る:その(2)『夜の鳩』
国立映画アーカイブで見た石田民三監督の『夜の鳩』(1937)は、東宝に合併する直前のJ.О.スタジオ製作で武田麟太郎の原作と脚本『一の酉』による。浅草の鳳神社近くの料理屋「たむら」で働く女たちが舞台で、後半は当時の浅草・鳳神社の「一の酉」の賑やかな様子がたっぷり見られる。
「たむら」で働く女たちはみんな悩みがある。主人公のおきよ(竹久千惠子)は看板娘と呼ばれていたが、今では少し年もとって前ほどの輝きはない。彼女が鏡を見つめたり、丁寧に化粧をしたりするシーンが痛々しい。気に入っている劇作家の村山(月形龍之介)が久しぶりに店に現れるが、16歳の妹のおとし(五条貴子)に取られやしないか不安になる。
店を仕切るのはおきよの兄だが、品川の食堂から来た兄嫁(葵令子)は「たむら」を父の代の高級店とは違って大衆的な店にしてしまった。おきよはそれも気に入らず、ときおり兄嫁に皮肉を言う。兄は間に立って右往左往。
17歳のおしげ(梅園竜子)はおきよに憧れてこの店にやってきたが、そこに母親がやってきて「福ずし」の旦那の二号になれと言うのに困っている。義父の新吉(沢井三郎)のためだと言うが、新吉が嫌いなおしげは言うことを聞かない。
おふじ(林喜美子)は「器量が悪いから御燗をつけるしかできない」と言われている(同じ役を『花ちりぬ』でも)。母にお金を送るのが楽しみで、おしげからもらったお金(新吉からと母が持ってきたが使いたくない)を喜んで送ると優しい返事が来たと喜んでいる。
11月になり近所で酉の市が始まると客も増えて朝まで営業。おとしは村山に誘われて彼の脚本の芝居のチケットをもらって有楽座(その大きくて賑やかなこと!)に行く。姉はそれを聞いて最初の待ち合わせの隅田公園に行くが、村山は乗ってこない。
ある晩、おきよは村山の友人の藤井(深見泰三)が村山が待っているというので入念に化粧をして指定の待ち合いに行くと、藤井に襲われる。おしげのもとには母親がまた来て、新吉のために50円貸してくれと頼むが断る。暗澹たる雰囲気の中、鏡を見るおきよのアップと賑わう酉の市のカットで映画は終わる。
大半は料理屋の中だが、外では軍隊ラッパの音が鳴り響き、1937年という時代の漠然とした不安を感じさせる。隅田川のポンポン船もよかった。先の見えぬ時代の水商売の女性たちの不幸を丁寧に見せる秀作。石田民三はぜひともDVDを出して欲しい。
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