オンラインのイタリア映画祭:もう1本
7日(日)までだったオンラインのイタリア映画祭第2部で最後に見たのが、ジャンルカ&マッシミリアーノ・デ・セリエによる『七つの慈しみ』。監督の略歴を調べて興味を持ったが、見るととんでもないアート志向の強い映画だった。
冒頭、暗闇から若い女が見ている。彼女は病院のトイレの洗面所で体を洗い、待合室で隣の女性のバッグを盗む。あるいは患者用の食事をこっそりリュックに入れる。そしてそのお金を「元締め」のような男に届けて、車の中で寝ることを許される。女の名はリミニツァ、モルドバから来たようだ。
喉に呼吸装置をつけた老人アントニオ(ロベルト・ヘルリツカ)がいる。入院して治療を受け、帰るところでリミニッツァに後をつけられて、アパートに押し入られる。彼女はアントニオを奥の部屋の閉じ込め、住み始める。偽の身分証明書を入手するために赤ん坊を盗む仕事を命じられて、赤ん坊をアントニオの部屋に持ち込む。
アントニオは赤ちゃんを育てるはめになるが、ある時リミニツァが帰ると赤ん坊はいない。彼女はアントニオを責めるがアントニオは何も話さない。二人は一緒に暮らすうちに、次第にコミュニケーションが生まれる。彼女はアントニオの世話を始めるが、病状が悪化して入院させる。アントニオは退院すると、赤ちゃんを連れてくる。リミニツァは「元締め」に赤ん坊を持ってゆくが、何日もたったせいで虐められる。
それだけの悲惨な話だが、闇に埋もれた移民たちや病気の老人たちにじっくりと光を当てる撮影は見事で、言葉も極めて少ないなかで人間存在の根源的な姿が浮かび上がってくる。それはほとんど宗教的な啓示のようで、服を脱がせたり着せたり、風呂に入れたり、食事を与えたりというシンプルな行為が、何ともありがたいものとして写る。
調べてみると監督は双子の兄弟という。映画に出てくる荒涼とした光景はトリノの郊外で、このデ・セリエ兄弟が住んでいるらしい。多くの短編やドキュメンタリーを撮っており、長編劇映画は2作目だが、とんでもない才能の監督であることは間違いない。
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