『秘密の森の、その向こう』の謎
セリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』(2019)は大傑作だった。女同士の愛をこれほど気高くかつ強烈でありながら、シンプルに描いた映画は初めてだと思った。その次はどう来るかと思ったら、9月23日公開の『秘密の森の、その向こう』はわずか73分の謎のような作品だった。
最初は2時間を超す18世紀のコスチュームものを撮った後の、「一回休み」かと思った。女の子が施設にいてクロスワードパズルをしているおばあさんに「さようなら」と挨拶をしているうちに、両親がやってくる。どうも祖母は亡くなったようで、その家を整理に行く。母親はいつの間にか姿を消し、少女は森を散歩しているうちに自分と似た女の子と出会う。
出てくるのは8歳の女の子ネリーとその両親、そして祖母の家の近所に住む女の子マリオンとその母だけ。みんな言葉少なで、感情も表さない。ほとんど何も起こらない少女二人の戯れかと思ったが、どうもおかしい。おかしいというよりも、不思議な緊張感がある。数少ない言葉やしぐさや表情に珠玉の強さがある。
ネリーが仲良くなるマリオンは姿かたちがそっくり。マリオンがヘアバンドをしているので区別できるくらい。彼女たちの出会いはなぜか宿命のようで、当然のごとくどんどん仲良くなる。マリオンには足の悪い母がいるが、父親は見当たらない。ネリーは祖母の家の整理が住んで帰ることになるが、父親に無理を言ってマリオンの家に泊まる。
そして家に帰って母親と再会し、そこから最高の真実が露呈する。時空を超えてつながる女同士の輪があちこちにできあがり、少女たちのふとした出会いの物語が、大いなる女の歴史になってゆく。
いつ祖母はなくなったのか、なぜネリーの母は祖母の家を去ったのか、長髪のネリーの父は何の仕事をしているのか、マリオンの父はなぜいないのか、わからないことだらけである。その謎の嵐はネリーとマリオンの自信に満ちた行動によって、気にもならなくなる。
このシンプルな謎の強度は、ほとんどロベール・ブレッソンである。『燃ゆる女の肖像』でもそれは感じたが、今回はあえて美学的追及や感情の発露を抑えて、よりブレッソンに近づいたようだ。
今回は試写の時間が合わずにオンラインで見た。もう一度劇場で見たら、もっと良さがわかるに違いない。
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