『海と毒薬』を読む
自宅近所の「かもめブックス」のこの夏の特集棚「戦争と日本」は9月になったら終わってしまったが、最後に買ったのが遠藤周作著『海と毒薬』の文庫だった。なぜ今頃『海と毒薬』かはさっぱりわからないが、気がついたら買っていた。
遠藤周作は、私が初めて「文学」に触れた作家かもしれない。理由は簡単で小学生の時に「ネスカフェ・ゴールドブレンド」のテレビCMで「違いがわかる男」として「小説家・遠藤周作」が出ていた。黒縁眼鏡で、黙ってインスタントコーヒーを飲む。調べてみると始まったのは1972年で小学校低学年だ。
そこで私は書店で遠藤周作が「狐狸庵先生」として出しているエッセーを読んだ。小説家というのは、こんな勝手なことを書いて仕事になるのだと驚き、これは小説家になりたいと思った。それからしばらくすると「違いがわかる男」に北杜夫が出てきた。こちらは「ドクトルまんぼう」シリーズがあった。
私は『ドクトルまんぼう航海記』や『ドクトルマンボウ昆虫記』を夢中になって読んで、それから彼の小説『幽霊』などへ進んだ。するとトーマス・マンを読みたくなり、『トニオ・クルーゲル』や『ベニスに死す』を図書館で見つけて読んだ。この頃は中学生だったか。それから高校生になると辻邦生や福永武彦へ行った。
考えてみたら、遠藤周作の小説は一冊も読んでいない気がする。しかし最初に自分で買いたいと思った本は「狐狸庵先生」シリーズなのは間違いない。今回、その代表作『海と毒薬』(1958)を読んだのはそんな遠い記憶があったかもしれない。内容は「九州大学生体解剖実験」として知られるもので、戦時中に落下傘で降りてきた捕虜のアメリカ兵を使って生体実験をした話だ。
私は既に熊井啓監督の同名の映画を1992年のベルリン国際映画祭で見たはずだが、夜の10時からの上映で半分寝てしまった。裁判の大げさな衣装だけしか覚えていない。それで今回初めて小説を読んだ。
私はてっきり首謀者である九大医学部教授の苦悩を描いた本だと勘違いしていた。遠藤周作はクリスチャンだから、それを信仰との関係で「神はいるのか」と問うものだと思い込んでいた。ところが読んでみると全く違っていた。今日はここまで。
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