「日本の中のマネ」に考える
「日本の中のマネ」というポスターを見た時、何となく真似が好きな日本人を思い浮かべた。そのうえ、「中の」の活字が小さくて「日本のマネ」に見えたから、本当に外国のマネばかりしている悲しい日本人を考えた。さらに小さく、「出会い、120年のイメージ」と書かれていた。
それは練馬区美術館で11月3日まで開催中の展覧会のポスターだった。メインのイメージは日本の田舎で野原でくつろぐ親子4人。今でもありそうな、「日本的満足」にも見えた。しかし「マネ」は「真似」ではなく、19世紀のフランスの画家、エドゥアール・マネのことだった。
マネは日本ではあまり知られていない。睡蓮のモネと区別がつかない日本人は多い。実はフランスでさえもそうだという話をオルセー美術館の学芸員に聞いたことがある。もともと作品数は多くない。この展覧会では日本に油彩画が10点ほどしかないことがパネル解説に書かれている。
そこには練馬区立美術館がシスレーの展覧会を開催した時には40点ほどあることが確認されたという。モネに至っては200点を超す。日本では印象派は人気があるが、そもそもモネは印象派展に出品したことはない。いわゆるサロン展に出品し続けた画家である。
それでも《草上の昼食》(1863年)や《オランピア》(1865年)は、スキャンダルを巻き起こした有名な作品だ。《草の上の昼食》はパリの2人の紳士が森で裸の娼婦と談話している感じで、神話世界ではなく、現実に見えたから。その意味では絵画にリアリズムを導入した重要な画家だ。
私はベルト・モリゾという印象派の女性画家が大好きだが、モネは美しいモリゾをモデルに何枚も肖像画を描いている。これがちょっと暗い感じでいい。モリゾはマネの弟と結婚しているが、マネとも関係があったと私は勝手に考えている。
この展覧会ではあまりマネの絵の魅力を感じる絵は多くない。しかし東京富士美術館所蔵の《散歩(ガンビー夫人)》はモリゾの肖像画に似て、印象派風の背景の森と共に、鮮烈な印象を残す。この展覧会の後半は日本でマネを真似した画家の絵が並ぶ。メインイメージの田舎の光景は、石井柏亭の《草上の小憩》(1904)のものだが、この絵は印象派風ではあっても、スキャンダルな要素のないのどかな田園の家族だ。
そのほか安井曾太郎など洋画家のモネ風の絵があったが、ピンと来ない。そういえば、日本で最初にマネに触れた文章は森鴎外が新聞『日本』に書いたものだという。その新聞まで国会図書館から借りてきて展示してあってちょっとびっくり。
最後はマネに触発された森村泰昌と福田美蘭の作品が並べてあった。森村泰昌はさすがに数点を見るだけでその鋭敏な感覚に驚くが、福田美蘭は私にはその意図がわからなかった。いずれにせよ、いろいろ考えさせる好企画。
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